診療支援
治療

四肢骨折牽引法
traction for fracture of extremities
山本啓雅
(大阪市立大学大学院准教授・救急生体管理医学)

 骨折した患肢に持続的な牽引力を作用させて,骨片転位による変形を可及的に整復し,かつその状態を維持することを目的とする.成人の長管骨骨折では術前の待機期間に,小児では骨折の保存的治療に用いられることが多い.牽引療法は安静による腫脹や疼痛の軽減が図られることや,骨片の転位による神経や血管の二次損傷が予防できること,また局所の観察と処置(創傷を伴う場合)が可能であることなどの利点を有する反面,離床や体位変換を困難にするなどの欠点がある.牽引法はフォームラバーなどを皮膚に当て,これを弾性包帯で巻いて固定したのち,皮膚を介して間接的に牽引する介達牽引と,骨にKirschner鋼線(以下,K-wire)や螺子などを刺入して牽引する直達牽引に分かれる.


A.適応,合併症,ピットフォール

1介達牽引

1適応

①介達牽引は絆創膏やテープを使用する方法もあるが,皮膚のかぶれを生じる場合も多く,市販のフォームラバーでできたトラックバンドを用いる方法が代表的である.トラックバンドを皮膚に当て,これを弾性包帯で巻いて皮膚に固定したのち,トラックバンドを牽引する.この方法は非侵襲的ではあるが皮膚との摩擦力を利用するため強い牽引力を得ることができず,適応は「小児の骨折」や「成人の短期間かつ弱い牽引力を必要とする脱臼・骨折」に限定される.

②小児での具体的な適応は,上肢で上腕骨顆上骨折や,上腕骨骨幹部骨折,下肢では4歳程度までの大腿骨骨幹部骨折などである.成人では転位のない股関節周囲の骨折や手術後,股関節脱臼整復後など,患部の安静を目的に用いられることが多い.

2合併症 強い牽引力で引くと皮膚への負担が大きくなり,水疱形成や褥瘡,皮膚炎を引き起こす.また包帯を強く巻きすぎると,末梢の循環障害,神経麻痺を起こすことがあり注意を要する.

3ピットフォール

①介達牽引での牽引力は一般には1~2kg,強くても3kgまでである.

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