嚥下困難とは

■定義

　口腔内より固形物や液状物が，咽頭，食道を経て胃内まで送られる一連の運動を嚥下という．嚥下運動には口腔，咽頭，食道の多数の筋肉や，それらを支配する三叉，迷走，舌下，舌咽などの神経がかかわっている．

　これらの諸器官がなんらかの原因で機能的あるいは器質的に障害され，一連の運動が妨げられることによって起こる症状を嚥下困難（dysphagia）という．

■患者の訴え方

　患者は，「飲み込めない」「むせる」「つかえる」などの症状を訴える．また嚥下時に疼痛を伴うこともあり，これは胸やけとは異なり位置が限局して起こることが多い．

　また高齢者の場合，狭心症の症状として訴えることもあり，注意が必要である．

■患者が嚥下困難を訴える頻度

　嚥下困難を訴える可能性がある疾患でも，比較的よくみられるが，必ずしも嚥下困難を合併しない場合がある．一方，多い疾患ではないが，嚥下障害を高率に合併する場合とがある．また，一過性のものか慢性のものか，原因疾患の重症度により症状の重要度も異なるため，一概には論じられない．ただ，疾患としての頻度はそれほど高くないが，強皮症では高率（50〜80％）に嚥下困難を合併する．

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

　正常の嚥下運動は，口腔期，咽頭期，食道期の3期に分けられる．口腔期は随意運動で，咽頭期，食道期は不随意運動で蠕動運動による．嚥下困難は以下に挙げる経路のいずれが障害されても起こる．

　図3-144図に嚥下困難が起こる病態を，表3-144図にその原因疾患として代表的なものを示す．

●口腔期

　口腔期は，食塊が口腔から咽頭に入るまでをいう．食塊は口唇，歯列が閉じ，顎舌骨筋の収縮により口腔底が押し上げられ，舌は硬口蓋に押しつけられ，さらに舌骨舌筋が収縮して舌根は後方へ向かい，食塊は咽頭に入る．

　これらの運動は三叉神経，顔面神経および副神経に支配されている．

●咽頭期

　咽頭