今日の診療
内科診断学

吐血
加藤 元嗣
浅香 正博


吐血とは

■定義

 吐血(hematemesis)とは,肉眼的に確認しうる中等量から大量の血液成分の嘔吐をいう.通常はTreitz(トライツ)靱帯の口側の消化管(食道,胃または十二指腸)に出血源が存在する.ただし,Treitz靱帯より肛門側の消化管に出血源があった場合でも,出血源より肛門側に狭窄・閉塞などの通過障害があれば吐血を起こしうる(図3-147)

 吐血の性状は,出血の部位,持続時間により変化する.

 一般に,胃より肛門側での出血は,ヘモグロビン(Hb)が胃酸の還元作用によりヘマチンに変化し,“コーヒー残渣様”(melanemesis)と表現される暗赤色から黒褐色になる.この色調変化は,出血量,胃内停滞時間に影響を受ける.胃潰瘍など,胃・十二指腸からの出血は,通常,コーヒー残渣様であるが,急性大量出血の場合は,鮮血となる.

 一方,食道静脈瘤など,胃より口側での出血では,鮮血となることが多いが,いったん胃内に停留すればコーヒー残渣様となりうる.

 紛らわしいものとして喀血が挙げられる.この場合は,咳嗽など呼吸器症状を伴うのが通常で,泡沫が混じった鮮血であることが多いため,鑑別はさほど困難ではない.

■患者の訴え方

 患者は吐血と前後してさまざまな症状を訴えることが多い.症状としては,①出血に伴う貧血,ショック状態に起因する冷汗,意識障害・無欲無関心,皮膚蒼白など,②出血の原因疾患に伴う疼痛などの症状,③消化管内の血液貯留による悪心が複雑に絡み合って出現する.

 なお,医療面接においては,患者本人はもちろんのこと,家族も突然の吐血に動揺・狼狽し,正確に状況を説明できない場合が多々あることは念頭においておくべきである.

■患者が吐血を訴える頻度

 上部消化管出血は,実地臨床上,遭遇することが多い.腹部救急疾患の10.4〜27.1%を占めている.これは急性腹症と並んで高い.

 また,全消化管

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