今日の診療
内科診断学

急性腹症
柵瀨 信太郎


急性腹症とは

■定義

 急性腹症(acute abdomen)とは,2〜3日間で急激に起こり,増強する強い腹痛で,多くは腹膜刺激症状があり,早急に手術または手術に置き換えられる他の緊急治療の必要性を判断して実施しないと死に至る危険性が高い疾患の総称である.

 腹痛の強さ自体は重症度に直接関連しないが,全身状態の低下,バイタルサインに変化を伴っている患者に対しては,蘇生術により全身状態の安定化をはかりながら,腹痛の原因診断を並行して進めなければならない.大動脈瘤破裂などによる腹腔内大量出血では,診断はもとよりバイタルサインも安定しないままで即告緊急手術を開始しなければならない場合さえある.

 原因は外科疾患だけでなく,婦人科疾患,泌尿器疾患,胸部疾患,全身性疾患など多岐にわたる.かつては診断技術が未熟で,診断がつかぬまま手術を行わなければならない患者が少なくなく,これらの疾患を総称して急性腹症と呼んできた.

 現在では,ほとんどの場合は病歴情報,身体所見,血液・尿検査,放射線画像検査(特に造影CT検査),必要に応じた外科コンサルトにより正確に診断されて,適切な治療を選択できることが多い.しかし,急性腸間膜血行不全,結腸穿孔,特発性胆囊穿孔などのように,今日でも早期診断が困難で緊急性が高い場合がある.

■患者の訴え方

 「ズキズキするような鈍痛」「深く灼けるような鈍痛」「キリキリと絞られるような痛み」「痙攣のような痛み」「差し込むような痛み」「じっとしていられないほどの痛み」「転げまわるほどの痛み」などを訴える.

 腹部以外の痛みも訴えることもあるが,これは放散痛による(表3-398).解剖学的には離れた部位であるが,罹患臓器と発生学的に共通の起源の脊髄分節によって支配される皮膚や筋節の領域に限局した痛みが起こる.

■患者が急性腹症を訴える頻度

 欧米の統計では,救急部受診患者の5〜10%が急性

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