診療支援
診断

抑うつ・不安
depression,anxiety
明智 龍男
(名古屋市立大学大学院精神・認知・行動医学分野 教授)

抑うつ・不安とは

定義

 まず,感情(affect),気分(mood)という用語の一般的な定義について振り返ったうえで,抑うつ,不安の概念そして定義を確認しておきたい.感情とは,主観的に体験している気持ちの状態(情緒)の表現のことを指し,一般的な感情の例としては,「悲しみ」「喜び」「怒り」などが挙げられる.気分とは,比較的弱い持続的な感情状態を指し,このなかに「抑うつ」「不安」などが含まれる.実際的には,感情と気分を明確に区別できるわけではないが,その相違点は主として持続期間にあり,感情が変動に富む情緒の「天気」の変化を意味するのに対して,気分はもっと広範で持続的な情緒の「気候」を意味している.次に,「抑うつ」「不安」の定義であるが,抑うつとは,一般的に,正常範囲を超えた悲しみが続く状態を指す.抑うつが発現しやすい最大の状況は喪失を体験した際である.不安とは,漠然とした未分化な恐れの感情が続く状態を指す(恐怖とは,明確な対象に対する持続的な恐れを指す).不安が発現しやすい状況は,不確実な脅威に直面した際である.

 しかし,不安症には高率にうつ病が合併し,うつ病には高率に不安症が合併するように,多くの場合,両者は混在する.

患者の訴え方

 上述したように,抑うつ,不安は気分を表すが,その表現型は実は多彩であり,抑うつ状態にも不安状態にも,同時に身体的な症状表出が存在する(表1).たとえば,不安状態には多彩な自律神経症状が随伴する可能性があり,「身体的不安」としての動悸,息苦しさ,口渇,手足のふるえ,発汗,頻尿などの存在はよく知られている.一方,抑うつ状態でも,倦怠感や食欲不振などが高頻度にみられる.実際,抑うつや不安が主とした病態であっても,患者自身が「自分は抑うつ状態で困っている」「不安状態で困っている」と訴えて来院することはまずなく,多くはなんらかの身体症状(例:食思不振など)を

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