診療支援
診断

せん妄
delirium
明智 龍男
(名古屋市立大学大学院精神・認知・行動医学分野 教授)

せん妄とは

定義

 せん妄は,軽度〜中等度の意識混濁に,幻覚,妄想,興奮などさまざまな精神症状を伴う急性の脳機能不全の状態である.脳機能の不全を示す見当識,感情,意欲,記憶の障害など,多彩な精神症状を呈する注意障害を伴う特殊な意識障害である.

 意識が障害されていない意識清明な状態とは,自身や周囲の状況をよく理解できている状態ともいえるため,上記の急性の脳機能不全の状態を反映して,きわめて多彩な精神症状がみられる.

 表1に米国精神医学会のせん妄の診断基準を示した.

患者の訴え方

 前述したように,せん妄を有する患者は,その障害される精神機能により実にさまざまな症状を示し,その結果が多彩な言動として表現される.意識清明な患者が,自身の苦痛症状やおかれた状態を言語的に表現するのとは異なり,せん妄状態にある患者は,自分自身の状態を的確に把握し,それを周囲の者や医療者に伝えることそのものができない.したがって,治療を受けているという医療現場にそぐわない言動や,辻褄の合わない言葉などを端緒として家族から医療者にその変化が報告されたり,医療者自身がそれまでとは異なる患者の異変に気づいたりすることが大半である.また,せん妄には,この症状があればせん妄と診断できるといった特異的な症状は存在せず,「自分はせん妄なので診療してほしい」と自発的に述べたり,受診する患者はいないという点が,ある意味特徴といえる.

 表1にせん妄の診断基準を示したが,患者にはその診断基準の項目を反映した状態としてのさまざまな症状が観察される.たとえば,注意障害に関しては,自身で注意力の低下を訴えることはまずなく,多くの場合,注意が障害された状態としての客観的な症状が観察される.それには,質問に対して集中できず,医療者との面談中にうとうとしたり,前の質問に対して同じ答えを繰り返すなどの状態が含まれる.診断基準Bの,もととなる注

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