乳房のしこりとは
定義
乳房の“しこり(lump)”は患者の訴えである.診断する側から触診で得られた所見を表す用語としては,硬結(induration)あるいは腫瘤(nodule/tumor)を用いる.前者は,限局しているが境界が明らかでない硬い変化に対して用い,後者は,輪郭を追ってその長径とその垂直の径を計測して数値で表せるものに対して用い,両者を区別して用いるべきである.
患者の訴え方
患者は「乳房にしこりがある」と訴える.痛みを伴わないことがほとんどであるが,気がついてから,よく触れるために痛みや圧痛を訴えることもある.そのような症状の変化とともに,触れたしこりの大きさの変化を確認しておくことが重要である.
患者が乳房のしこりを訴える頻度
乳腺外来を受診する初診患者の症状は,乳房のしこりと乳房痛がほとんどである(図1)図.検診や人間ドックにより精査を指示された無症状の患者や,他院で乳癌の手術を受けた患者を除いた有症状者に限ると,4割の患者が乳房のしこりを主訴として来院している.そして,その半数の患者が最終的に乳癌と診断されている(図2)図.
乳房のしこりは乳癌診断につながる重要な症状である.
症候から原因疾患へ
病態の考え方
乳腺は乳頭(nipple)を根とし,乳汁を運ぶ乳管(duct)が木の枝のように広がり,その先に葉に当たり乳汁を産生する小葉(lobule)がついているとイメージするとわかりやすい.乳頭には15〜20本程度の導管(集合管)が開口している.導管は主乳管を経て区域乳管に繋がり,亜区域乳管に分岐し,最も末梢側で最終乳管から小葉に達する.小葉は膠原線維間質で包まれ,さらに脂肪組織で取り囲まれていて弾性に富んだ組織である.このような組織構造をした乳腺の組織に実がなるように無構造の組織の腫瘍ができると,膠原線維間質が少なくなって弾性が乏しくなり,正常の乳腺より硬いしこり