低血圧とは
定義
低血圧は表1図のように分類される.一般的には収縮期血圧が100mmHg以下を指し,拡張期血圧は通常はあまり問題視されない.高血圧については明確な基準値が存在する一方で,低血圧には明確な基準がなく,起立性低血圧の定義に関してのみ国際的コンセンサスが存在する.低血圧では単純に血圧が低いかどうかよりも,患者の実際の症状や所見が重要となる.ある状況でのみ血圧が低下する「一過性低血圧」の場合は,診察室では血圧が正常であることが多く,起立性低血圧や食事性低血圧などが鑑別疾患として挙げられる.一方で症状のない慢性的な低血圧は「本態性低血圧」とされ,臨床上あまり問題となることはない.
患者の訴え方
低血圧の症状は,立ちくらみ,めまい,ふらつき感,易疲労感,倦怠感,頭痛,頭重,肩こり,失神,耳鳴,不眠,動悸,胸痛,胸部圧迫感,食欲不振,便秘,腹部膨満感,悪心など非常に多岐にわたる.特に起立性低血圧では,典型的には立位への体位変換後から,ふらつき,めまい,眼前暗黒感などが多いが,これらの症状は一過性の脳血管への血流低下によって引き起こされる.起立時にめまいやふらつきなどの症状がたびたび出現し,日常生活に支障をもたらし,増悪すると失神発作をきたす場合がある.
急性の低血圧で来院した患者の場合は,ショックの徴候(顔面蒼白,冷汗,虚脱,脈拍触知不良,呼吸不全)を示している可能性が高く,注意深い診察が必要である.また,患者によっては,「貧血がある」と訴えることがあるが,これは医学的な貧血ではなく,一過性の脳血流の低下を指している可能性が高く,医療面接の際には注意が必要である.
一方で,慢性の低血圧の場合は無症状のことも少なくない.
患者が低血圧を訴える頻度
低血圧は人口の1.5〜7%とされるが,性別では男性で0.5%前後,女性で2%前後,そのなかで愁訴や症状のみられる症例は約10%程度とさ