腹水とは
定義
腹腔内には30〜40mLの体液が生理的に存在する.しかし,種々の原因によりこれ以上の液体が貯留した場合を腹水という.
腹水は液体の性状の違いから,淡黄色透明で非炎症性の漏出液(transudate)と,外観上混濁し血性ないし乳び状の滲出液(exudate)に大別される.
両者の比較を表1図に示す.
漏出性腹水は,腹膜そのものには病変主座がなく,肝硬変などでみられる門脈圧亢進,低アルブミン血症による浸透圧差,腎における水とNaの貯留,利尿ホルモンの異常が原因となる.
一方,滲出性腹水は腹膜に炎症や腫瘍が存在することにより腹膜血管透過性が亢進し,血液成分が滲出して生成される.
これらとは別にゲル状の腹水がある.
患者の訴え方
腹部膨満感のほか,「ズボンやベルトがきつくなった」と訴えるのが圧倒的に多い.手足の浮腫や体重の増加を主訴として受診した際に見つかる場合もある.
患者が腹水を訴える頻度
腹水は原因となる疾患がかなり進行しないと出現しないもので,頻度は高くはない.しかし,末期肝硬変ではほぼ100%,2.5g/dL以下の低アルブミン血症では約80%,腹膜炎では約70%にみられる.
症候から原因疾患へ
病態の考え方
(図1)図
腹水がある,または疑わしいと考えられた場合は,頻度的に最も多い門脈圧亢進によるものをまず疑って診察する.門脈圧亢進に特徴的な症状や所見があれば,さらに肝硬変によるものか非肝硬変性かを考える.非肝硬変性はうっ血肝をきたす心疾患,肝静脈・下大静脈の閉塞や,門脈血流を阻害する病態を考える.
門脈圧亢進の症状や所見がない場合は,腹水以外に浮腫がないかをみる.全身に浮腫があれば,ネフローゼ症候群など低蛋白血症,粘液水腫を考える.腹水のみの場合は癌性腹膜炎,発熱や腹痛を伴う場合は細菌性腹膜炎を考える.表2図に腹水の原因となる主要疾患を列挙する.