診療支援
診断

もの忘れ
forgetfulness
吉倉 延亮
(岐阜大学大学院脳神経内科学分野 講師)
東田 和博
(岐阜大学大学院脳神経内科学分野 非常勤講師)
下畑 享良
(岐阜大学大学院脳神経内科学分野 教授)

もの忘れとは

定義

 「もの忘れ」という言葉は,一般的には過去に経験した出来事の内容がうまく思い出せない場合や,これから新しく何かを覚えようとしてもうまくできない場合に使用される.つまり,記憶の障害があることを表現するときに使用される.もの忘れに該当する医学的な用語としては健忘(amnesia)が挙げられる.また,どちらかといえば慢性的な経過の健忘を指す場合が多いが,もの忘れという言葉自体に時間的な概念は含まれていない.

 われわれの脳に備わっている認知機能の1つである記憶について,もう少し理解を深めるために,記憶の過程や分類について説明する.記憶には,情報を新しく覚える(記銘),一定期間覚えておく(保持),思い出す(想起)という3つの過程がある.記憶の障害は,この過程が障害された場合に起こる.

 次に記憶の分類について述べる.記憶の分類方法はいくつかあり,用語もたくさんあって混乱しやすい.何を基準にして分類や記述がされているのか,を意識すると理解しやすい.具体的には,記憶を保持している時間,記憶の内容によって分類される.時間という観点からは,即時記憶(記銘直後に想起する),近時記憶(記銘後に数分〜数日経過してから想起する),遠隔記憶(記銘後に数日〜年単位ののちに想起する)に分類される.そして,記憶の内容の観点からは,内容を説明できる陳述記憶と説明できない非陳述記憶に分類される.陳述記憶はさらに,自分が経験した,時間や場所に関係する情報を含むエピソード記憶(たとえば昨日の夕食について誰とどこで食べたか)と普遍的な知識に相当する意味記憶(例:1年は365日である)に分類される.非陳述記憶の代表的なものとしては,箸の扱い方や自転車の乗り方など,身体で覚えた(記憶した)技能が挙げられる.

 なんらかの疾患によって記憶が障害された場合,その疾患の発症時期からみて過去の記憶が障害されているもの

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