運動麻痺とは
定義
運動麻痺とは,運動中枢から末梢神経,筋線維までのどこかに障害があって,随意的に運動ができない状態である.筋脱力については後項→に譲り,本項では神経原性の運動麻痺を中心に述べていく.
患者の訴え方
患者が「手足がしびれている」と訴える場合には,感覚障害だけでなく運動麻痺の場合があるので,正確に医療面接を行う.
運動麻痺がある場合,患者が「箸を持ちにくい」「スリッパがよく脱げる」と訴える場合は遠位筋の脱力を,「ふとんの上げ下ろしが難しい」「しゃがみ立ちが困難」と訴える場合は近位筋の脱力を考える.
患者が運動麻痺を訴える頻度
一般外来と専門外来(脳神経内科や整形外科)では運動麻痺を訴える患者のみられる頻度は著しく異なる.一般外来では1%以下の頻度であろう.
症候から原因疾患へ
病態の考え方
運動の命令は,大脳皮質運動野,内包,脳幹,脊髄,末梢神経,神経筋接合部,筋肉へと神経刺激が伝達されて運動が行われる.したがって,これらのレベルでの障害により,それぞれ特徴のある運動麻痺を呈する.
これらを引き起こす病態としては図1図に示すようなものがある.その原因疾患として運動麻痺の特徴別に主なものを表1図に示す.
病態・原因疾患の割合
一般外来を含めた麻痺全体におけるそれぞれの病態の割合は不明である.脳神経内科外来におけるおおまかな相対頻度を図1図および図2図に示す.
診断の進め方
診断の進め方のポイント
●運動麻痺の原因を考える場合,上位運動ニューロン障害か下位運動ニューロン障害かをまず鑑別する.
●上位運動ニューロン障害は,大脳皮質運動野から内包,脳幹,脊髄に至る経路の障害である.下位運動ニューロン障害は,脊髄前角細胞から筋線維に至るまでの末梢神経の障害である.
●鑑別点としては,上位運動ニューロン障害では深部腱反射は亢進し,病的反射が陽性で線維束攣縮は陰性である.
●下位運動ニューロン障害