筋脱力とは
定義
筋脱力(筋力低下)は,随意運動の経路,すなわち上位運動ニューロン・下位運動ニューロンおよび筋の障害で生じる随意運動遂行能力の低下,消失をきたした状態をいう.
脱力とは,麻痺を自覚することで,運動麻痺と本質的には同義である.
患者の訴え方
筋脱力の主訴といっても多彩であり,たとえば,患者は「しゃがんだ姿勢から立ち上がりにくい」「階段を昇りにくい」「布団を持ち上げたり,洗濯物を物干しにかけるのがつらい」「手に持った物が普段より重く感じる」などと訴える.
医療面接では日常生活動作のなかから推定する.たとえば,うずくまった状態から立ち上がりが困難な状態では下肢近位筋の筋脱力を,布団を持ち上げたり,物を持ち上げたりするのが困難な場合には上肢近位筋の筋脱力を,箸やドアノブを持ちにくくなった場合には遠位筋の筋脱力を考える.
症候から原因疾患へ
病態の考え方
(図1)図
脳血管障害による片麻痺や脊髄外傷による対麻痺などでは,いわゆる運動麻痺という形態をとる.これらは一時的に弛緩性麻痺となり,その後,痙性麻痺へと移行する.下位運動ニューロンの障害による運動麻痺は末梢性運動麻痺であり,深部腱反射は低下,消失し,筋萎縮もみられる.神経筋接合部の場合は,末梢性運動麻痺と似ているが,重症筋無力症,Eaton-Lambert症候群などの特殊な病態のみである.
筋自体の病変による筋脱力は,深部腱反射が低下し,筋萎縮を伴う.筋萎縮は,脊髄前角細胞から神経根,末梢神経までの障害による神経原性筋萎縮と,筋肉自体の障害による筋原性筋萎縮(ミオパチー)からなる.
筋病変,神経筋接合部の障害,末梢神経障害,神経叢障害,神経根障害,脊髄障害により,筋脱力をきたす疾患を表1図に示す.また,上位運動ニューロン,下位運動ニューロン,筋障害による運動麻痺の鑑別を表2図に示す.
疾患の頻度と臨床的重要度を図2図に示す.