診療支援
診断

上腹部痛,背部痛
79歳 男性
鈴木 修司
(東京医科大学消化器外科学分野 主任教授)

現病歴:朝から急に上腹部,背部に激しい痛みを自覚し,救急搬送となった.

既往歴:高血圧内服治療中,糖尿病内服治療中.

生活歴:喫煙歴20本×59年.飲酒は付き合い程度.

家族歴:特記すべきことはない.

身体所見:意識は清明.体温36.7℃,血圧158/83mmHg,脈拍100回/分,呼吸数20回/分,SpO2 96%(room air).眼瞼結膜若干黄染.心音に異常なく,呼吸音も左右差なし.腹部若干膨満.心窩部に圧痛を認めるが,腹膜刺激症状はなく,腫瘤触知は認めなかった.

【問題点の描出】

既往歴はあるものの,79歳男性,突然発症した上腹部痛,背部痛で受診し,眼瞼黄染,心窩部圧痛も認めている.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・心筋梗塞

・腹部大動脈瘤破裂

・胃・十二指腸潰瘍穿孔

・急性胆囊炎

・急性膵炎

・肝癌破裂

・急性虫垂炎

・帯状疱疹

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 急性腹症で受診した患者に対しては,まず〈p〉バイタルサインの異常の有無で緊急処置を要する状況かどうかを判断する必要がある.バイタルサインに異常のある場合は,医療面接や身体診察は必要最小限にとどめ,治療を優先する必要がある.

 今回の患者の場合は,突然発症の上腹部痛,背部痛であるものの〈除〉バイタルサインは安定しており,肝癌破裂腹部大動脈瘤を示唆する血圧低下などの全身状態の変化を認めていないため〔症候・病態編「急性腹症」参照〕,緊急処置を要する状態ではないと判断し,医療面接,身体診察および検査を進めていく.

 上腹部痛や背部痛はさまざまな疾患が原因で起こる頻度の高い症状である.痛みの部位や移動,痛みの時間経過,痛みの性状や発生状況,食事に関連したものかどうかなどを正確に聴取し,原因疾患の絞り込みを行い,オーダーする検査につなげることが医療面接では重要である.

 この患者の上腹部痛,背部痛は突然発症し,

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