診療支援
治療

初版の序

 筆者は理学部化学科で分析化学などを学んだ後に医学部を卒業し,出身大学の附属病院精神神経科を出発点として精神医学を研鑽していました.ところが少しは診療能力に自信が芽生え始めた頃,出向先の某総合病院で受け持ちの入院患者が7階から飛び降り自殺を図ってしまいました.患者はただちに救急室に運ばれましたが即死の状態でした.外来診療中に呼ばれて救急室に駆けつけた私は何もできずに立ちすくむのみでした.私はこの患者さんの心も体も救うことができなかったのです.

 この痛恨極まりない体験をきっかけに新たに救急医を志した私を,現在の職場に快く迎えてくださったのが,本書の監修者である相馬教授(当時の助教授)でした.当初は集中治療を中心に研鑽していたのですが,やがて相馬教授から「急性中毒を専門分野にしてみないか」と勧められました.そこで腎センターおよび腎臓内科をローテートして急性血液浄化法を学んだ後,相馬教授の指導を仰ぎながら急性中毒の診療に本格的に関わるようになりました.

 急性中毒では生体試料を分析して診断や重症度の評価に利用する必要があります.また,血液透析法や血液灌流法などの急性血液浄化法を含めた集中治療の必要もあります.さらに,精神疾患を背景とした自殺企図によるものが多いため,患者を精神科的に評価して身体状況が回復した後に適切にトリアージする必要もあります.すなわち急性中毒は,私のこれまでの理学部「化学科」,急性血液浄化学を含めた「集中治療」,および「精神科」の経験がすべて活かされる領域であり,やりがいを感じることができました.

 中毒の原因物質は数多くあります.それらすべての急性中毒に対する適切な治療法を頭の中に入れておくことは不可能です.当然ながら参考図書が必要になります.しかし,文字による情報量が多すぎると,救急医療の現場での限られた時間では把握が困難です.逆に,ただ必要な治療法が羅列され

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?