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治療

C 吸収の阻害──急性中毒治療の5大原則(2)
上條 吉人
(北里大学特任教授・中毒・心身総合救急医学)

 以前は,消化管からの薬毒物の吸収を阻害すれば,患者の症状はやわらぎ,予後は改善するはずだと直感的に信じられ,催吐,胃洗浄,下剤の投与などの消化管除染法が慣例的に施行されていた.ところが現在では,EBM(evidence based medicine)の普及によって適応がかなり限られている.消化管除染法としては,第1選択が活性炭の投与で,いくつかの適応のあるものには腸洗浄を施行するが,吐根シロップによる催吐,胃洗浄,下剤の投与は推奨されていない.


胃洗浄

1)胃洗浄の適応


・胃洗浄は,生命を脅かす可能性のある量の薬毒物を服用してから1時間以内に施行できなければ考慮すべきではない.


 胃洗浄が有効であるエビデンスはないのに,後述するような合併症が有意に増加する.したがって,胃洗浄を慣例的に施行してはならない.活性炭に吸着される薬毒物であれば,たとえ生命を脅かす可能性のある量を服用していても,活性炭の投与だけで十分である.ただし,初期対応のポイント38に示すような,活性炭に吸着されにくい薬毒物には,胃洗浄は有効な可能性がある.


2)胃洗浄の禁忌


・意識状態が不安定,または咽頭反射が消失しているのに気管挿管などの確実な気道確保が施行されず,誤嚥による窒息や肺炎をきたす可能性がある場合.

・石油製品などの炭化水素のように,粘度が低く揮発性があるため気道に入りやすいうえに,粘膜刺激作用が強く化学性肺炎を生じる可能性がある薬毒物を服用した場合.

・酸やアルカリのように腐食作用が強く,胃内容物の逆流や嘔吐によって喉・咽頭,食道粘膜が再度曝露されると,腐食性病変が進行する可能性がある薬毒物を服用した場合.

・基礎疾患や最近の手術などによって消化管出血や穿孔のリスクのある場合.


3)胃洗浄の合併症

 発生頻度は3%程度であるが,生命を脅かす重篤なものが含まれている.

①誤嚥:最も頻度の高い合併症.主として胃内容物

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