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F 「死へのエネルギー」の評価とトリアージ──急性中毒治療の5大原則(5)
上條 吉人
(北里大学特任教授・中毒・心身総合救急医学)

 自らの意思で薬毒物を摂取して救急医療を受診する急性中毒患者に対しては,身体治療と並行して,「死へのエネルギー」を適切に評価し,適切に後方施設にトリアージしなくてはならない.


「死へのエネルギー」の評価

1)精神障害と「死へのエネルギー」

 初期対応のポイント74に,国際疾病分類第10版(ICD-10)によって分類されている精神障害のうち救急医療との関係が深いものを示す.なかでも,急性中毒患者に合併することの多い精神障害を赤字で示す.

 合併している精神障害によって,自傷行為や自殺企図によって救急医療を受診する患者の「死へのエネルギー」は異なる.F1に属するアルコール依存症,F2に属する統合失調症,F3に属する重症うつ病などを合併している患者の死へのエネルギーは比較的高い.心理的剖検による研究では,これらは自殺既遂者に合併していた精神障害の大部分を占め,自殺の3大精神障害と呼ばれている.一方,F3に属する軽症うつ病,F4に属する適応障害や解離性障害,F6に属する境界性パーソナリティ障害などを合併している患者の死へのエネルギーは比較的低い.


2)自傷行為や自殺企図の手段と「死へのエネルギー」:「硬い手段」と「軟らかい手段」

 自傷行為や自殺企図の手段はさまざまであるが,なかでも救命率が低く確実性が高い手段は「硬い手段」,救命率が高く確実性が低い手段は「軟らかい手段」といわれている.初期対応のポイント75に示すように,縊首や高所からの飛び降りは硬い手段といえるが,急性中毒は総合的にみれば軟らかい手段といえる.一般に,「死へのエネルギー」が高い患者は硬い手段を,「死へのエネルギー」が低い患者は軟らかい手段をとる傾向にある.


3)急性中毒と「死へのエネルギー」:薬毒物の毒性と摂取量

 同じ急性中毒であっても,薬毒物の毒性や摂取量によって救命率は異なる.薬毒物のなかでもパラコートや有機リンなどの

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