症候を診るポイント
●killer chest painとよばれる緊急性の高い疾患を見逃さない(表1-9図).
●リスクファクターを把握したうえでの詳細な病歴と身体診察がきわめて重要.
●救急外来と一般外来での胸痛の原因疾患の頻度は大きく異なることに注意.
▼定義
胸部に感じる痛みのこと.ただし,必ずしも痛みの原因が胸部にあるとは限らない.
▼病態生理
➊内臓痛
実質臓器や管腔臓器に物理的および化学的刺激が及んだときに,やや広い範囲に漠然として感じる鈍い痛みで,交感神経求心線維であるC線維を介して脊髄に伝えられる(例:虚血性心疾患による心筋障害や逆流性食道炎のときの食道平滑筋に感じる痛み).
➋体性痛
皮膚や被膜などに刺激が及んだときに局所的に感じる鋭い痛みで,脳脊髄神経求心線維のAδ線維を介して脊髄に伝えられる(例:帯状疱疹,心膜炎,胸膜炎などの痛み).
➌関連痛
胚の時期にその臓器の起源となった皮膚分節の領域に感じる痛みで,痛み刺激を受けている臓器と離れた部位の皮膚に出現する(例:虚血性心疾患のときに感じる肩,下顎の痛み).
上記の3分類はよく知られているが,上記に当てはまらない心因性の胸痛も存在することを忘れてはならない.
▼初期対応
まずは全身状態とバイタルサインの評価を第一に行うが,急性発症の胸痛であり,冷汗を伴い苦悶様の表情で呼吸促迫などがあれば,後述のkiller chest painである可能性はきわめて高くなり,緊急的介入が必要となる.要点を押さえた問診と身体診察を素早く行うと同時に,酸素投与,モニター装着,末梢静脈確保,心電図記録と胸部X線撮影などの処置や検査を並行する.一見バイタルサインが安定しているようにみえても,killer chest painの場合は突然ショックになることもありうるため慎重に対応する.
killer chest painがほぼ除外でき,バイタルサ