診療支援
治療

【4】腹痛
abdominal pain
鈴木 富雄
(大阪医科大学特任教授・地域総合医療科学)

症候を診るポイント

●放置すると生命にかかわるような急性腹症は絶対に見逃さない.

●突然発症の腹痛は管腔臓器の重篤な病態と関連していることが多く要注意(裂ける,破れる,ねじれる,詰まる).

●常に消化器系以外の原因の可能性も考える(心血管系,婦人科系など).

●妊娠可能年齢の女性の腹痛は妊娠していると思って診察する.

▼定義

 部位が局所性か全体かにかかわらず,原因が腹腔臓器か腹腔外臓器かにかかわらず,腹部に感じる疼痛全般を指す(図1-4)

▼病態生理

 内臓痛,体性痛,関連痛の3つに分けて考えるとよい.

内臓痛

 消化管などの管腔臓器に機械的な外力や炎症などの刺激が加わったときに感じる鈍い痛みで,両側性の神経支配を受けているので,痛みを正中付近に感じることが多い.また管腔臓器は時に拡張や伸展による間欠的な痛みを起こし,この痛みを特に疝痛とよぶ.内臓痛を伝える神経は脊髄で自律神経系との間に反射弓を形成しており,痛みとともに嘔気,下痢,冷汗などの自律神経症状を伴うことも多い(例:虫垂炎の初期に心窩部に感じる鈍い痛みに引き続き起こる嘔気).

体性痛

 腹壁や壁側腹膜に外傷や炎症などの刺激が波及した場合に,伝導速度の速いAδ線維を介して脊髄神経を通じて感じる痛みで,通常は鋭く局所的な持続痛である(例:虫垂炎の右下腹部痛).

関連痛

 刺激を受けた内臓の部位ではなく,ほかの部位の体壁付近に感じる痛みで,内臓求心性神経線維が脊髄でほかの部位を支配する体性知覚神経を刺激して,ほかの部位の体壁や皮膚に感じる痛みのことである(例:十二指腸潰瘍の背部痛).

▼初期対応

 まずはバイタルサインを含め全身状態の評価を行う.ショック状態の場合は,気道確保,酸素投与,心電図モニター,ルート確保+細胞外液の急速輸液などの初期の緊急対応をするとともに,原因検索を同時並行で進める.血圧が低下している場合には骨盤や腹腔内臓器およ

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?