症候を診るポイント
●外頸静脈と内頸静脈を明確に区別する.
●頸静脈の拍動はへこむ拍動である.
●患者の体位を意識して評価する.
▼定義
右心系の圧が高くなると,その直前に位置する頸静脈を「怒張」あるいは「拍動高位」として確認できる.至って単純な所見であるが,頸静脈の診察は心不全や循環血液量と関連し,病状に応じて刻一刻と変化するため,初診時だけではなく治療介入後のフォローアップまで非常に有用な所見である.古典的な診察であるが,その有用性は医療機器が発達した現在でも劣っておらず,次世代へと受け継いでいくべき診察である.
▼病態生理
➊外頸・内頸の解剖の違いを理解して使い分ける
頸静脈は胸鎖乳突筋に隔てられ,内頸静脈と外頸静脈がある(図1-9図).外頸静脈は血管が浮き出て見えるが,内頸静脈の輪郭は確認できない.すなわち,「頸静脈怒張」という言葉は外頸静脈の所見をいい,内頸静脈は血管そのものではなく,拍動を観察する.外頸静脈怒張は臥位であれば健常人でも観察できるため,頸静脈怒張=異常所見とはいえない.
➋内頸静脈診察で中心静脈圧を推定できる
内頸静脈の拍動の頂点を,胸骨角をゼロ点として地面に対して垂直に測定した距離を内頸静脈圧(cmH2O)という.胸骨角から地面に垂直に5cm下に右房が位置し,「中心静脈圧≒内頸静脈圧+5cm」と近似できる.したがって,内胸静脈の正常上限は約5cm(中心静脈圧で10cmH2O)といえる.
➌頸静脈波は2度へこむ(図1-10図)
右室が収縮する際,右房は右室へと引き込まれるため,収縮期に右房圧は急激に低下する.また拡張期には右房から右室へ血液が流入する際,もう一度右房圧が低下する.頸静脈圧も同様に変化するため,内頸静脈は2度へこむ拍動として観察される.一方,頸動脈は鋭く外向きに単相性の拍動をする.
▼鑑別診断
頸静脈圧診察は主に右心不全徴候の1つとしてみられる所見では