診療支援
治療

【1】悪心・嘔吐
nausea/vomiting
松下 達彦
(湘南厚木病院)

症候を診るポイント

●主訴以外の随伴する症状や背景から診断を絞り込む.

●対症療法の効果により器質的疾患の有無を判断することはできない.

▼定義

 悪心はなんともいえず強い嫌悪を感じ,食欲不振を伴う気分不良のこと.嘔吐は能動的かつ強制的な胃内容物の放出であり,結果的に横隔膜の筋肉の収縮により起こるものである.それは悪心を伴う場合も伴わない場合もある.

 すべての悪心は,その原因にかかわらず,体動によって増強し,安静臥床によって軽減する.

▼病態生理

 嘔吐を開始する感覚神経信号は主に咽頭や食道,胃,小腸上部に由来する.

 発生した神経インパルスは迷走神経と交感神経の求心性神経線維によって脳幹にある複数の神経核に伝達される.これらは一括して嘔吐中枢とよばれる.ここから実際に嘔吐を起こす運動インパルスが三叉神経,顔面神経,舌咽神経,迷走神経,舌下神経を経由して上部消化管へ,また迷走神経や交感神経を介して下部消化管へ,また脊髄神経を通って横隔膜と腹筋へ伝えられる.嘔吐と食物の逆流(regurgitation)とを混同してはならない.

 食物の逆流は単に食物を口から排出したというだけのことであって,悪心や,腹部ないし横隔膜の筋収縮を伴わない食物逆流は,食道狭窄,食道憩室,食道アカラシア,胃・食道括約筋機能不全などでみられる.

▼鑑別疾患

 嘔吐の原因は脳,前庭,消化管が関与するが,同時に2つ以上が関与する場合もある.よって診断は難しく,随伴症状や各臓器の器質的な異常,精神,心理的な面をも考慮して行うことになり,悪心・嘔吐自体の性状から診断に結びつけることはできない.

 また,対症療法の効果により,器質的疾患の有無を判断することも危険である.

 また,急性に発症した嘔吐はまず緊急を要するものを除外することから始める.

▼鑑別疾患

 随伴症状や病歴から鑑別疾患を想起する(表1-34)

 その他VINDICATE-

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