症候を診るポイント
●腹部膨隆・膨満をきたす原因には腸管ガス,腹水,腹部実質臓器腫大,腫瘤形成などがある.緊急性の高い外科的疾患の除外から始まる.
●腹部膨隆・膨満の原因臓器には消化器系の臓器だけではなく,大血管や泌尿生殖器も挙げられる.さらに生殖年齢の女性は妊娠にも注意する.
▼定義
腹部膨隆・膨満は腹部全体や局所に膨らみが出現する客観的な徴候である.
▼病態生理
腹部膨満・膨隆の原因には腸管ガスが貯留する鼓腸,腹水貯留,臓器腫大・腫瘤形成,妊娠および過剰な膀胱充満などがある.
腸性鼓腸の原因には,①腸管の機械的通過障害いわゆる機械的イレウス,②腸管蠕動運動の機能的障害による麻痺性イレウス,③腸管ガスの増加がある.
腹水は漏出性腹水と滲出性腹水に分けられる.①漏出性腹水の原因には門脈圧亢進,血管の静水圧上昇,血漿膠質浸透圧低下がある.②滲出性腹水の原因として感染性,炎症性,悪性腫瘍が挙げられる.その他には,血性腹水,乳び腹水がある.
腹腔内臓器の腫大・腫瘤形成,腫瘍や囊胞,液体貯留による腹部膨隆・膨満がある.
▼初期対応
腹部膨隆・膨満の初期対応では外科的緊急疾患を見逃してはならない.特に突発性の疼痛を伴った腹部膨隆・膨満には,機械的イレウスや動脈血栓症に伴う腸閉塞,腸捻転,腸管破裂や腹部大動脈破裂などに注意する.ABC初期治療を行い,血液・画像検査に進んでいく.
▼鑑別診断
腹部診察するときに腹部の分割(図1-14図)を利用し,関連臓器を推定しながら行うとよい.
➊鼓腸
機械的イレウスの原因に癒着性イレウス・悪性腫瘍・異物・高度な便秘・腸捻転・炎症性腸疾患などがある.麻痺性イレウスには腸管外の原因が多く,電解質異常(低カリウム血症や高マグネシウム血症)・内分泌疾患(甲状腺機能低下症など)・薬剤性(抗コリン作用薬など)があり,腸管への感染性・非感染性の炎症の波及や血流の低下でも起こる