診療支援
治療

【7】歩行障害
gait disturbance
後藤 淳
(済生会横浜市東部病院脳神経センター・副院長)

症候を診るポイント

●問診,診察から歩行障害の内容を明らかにする.

●歩行の診察は,診察室内という特殊環境下である点にも要注意.

●診察時には,転倒リスクなど患者の安全に十分な配慮が必要.

▼定義

 歩行できないこと(狭義)と歩き方の異常(広義,歩行の異常)を歩行異常とよぶ.

▼病態生理

 歩行には起立・姿勢保持,歩行リズム形成から重心移動・姿勢制御まで,末梢(筋骨格,末梢神経)から,脊髄,前庭,小脳,大脳基底核,視床,大脳に至る多様な機構の関与が知られる.歩行障害は85歳以上で40%に及び,ADLやQOLに直結し,不慮の事故の主因である転倒や転倒関連外傷のリスクとしても重要である.

▼初期対応

 狭い診察室の中では見落とすものも多いことを心がけ,身体所見や生活動作全体における目配りも重要である.急性発症では,脳卒中や神経筋疾患など治療介入可能な病態を早期に鑑別する.転倒,骨折既往(特に半年以内)があれば,鑑別診断,疾患特異的治療介入とともに廃用症候群,フレイル(frailty),転倒リスクを評価し,生活背景も踏まえた生活指導,生活リハビリテーション,社会資源導入も遅滞なく進める.

▼鑑別診断

 主な歩行障害とその臨床的特徴を以下に示す.

痙性歩行(spastic gait)

 筋トーヌスが亢進した下肢を振り出す歩行.上位運動ニューロン障害で認める.痙性片麻痺性歩行で上肢屈曲・下肢伸展のWernicke-Mann(ウェルニッケ-マン)肢位を認める.痙性対麻痺性歩行では,はさみ脚歩行(scissors gait)を呈する.脳性小児麻痺,HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy:HAM)などで認める.

失調性歩行(ataxic gait)

1)小脳性失調性歩行

 左右への動揺,開脚歩行(wide based gait)を呈し,継ぎ足歩行(tandem gait)で動

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