症候を診るポイント
●構音障害は,まず失語症との鑑別を行う.
●構音障害と嚥下障害を同時に伴えば,神経性疾患の可能性が高い.
●突然発症の構音障害・嚥下障害は脳血管障害を考慮する.
▼定義
構音障害とは口唇,口蓋,舌,咽頭機能の障害による発声の異常である.また,嚥下障害とは,食物が口腔,咽頭,食道を通過する際に通過が止まったり,遅れる感覚と定義される.嚥下障害の原因としては大きく分けて,咽頭部の異常か,食道の異常の2種類である.飲み込みにくさが「飲み込み始め」にあれば咽頭部の異常,「飲み込んだ後数秒してから」にあれば食道の異常と区別できる.構音障害,嚥下障害を起こす病態は幅広いが,本項目では神経疾患による口腔・咽頭異常における構音障害と嚥下障害について述べていく.
▼病態生理
神経疾患による構音・嚥下障害には下部脳神経障害が関与する.構音とは発声された音,あるいは息の流れが舌,口蓋,口唇などにより子音を作る過程である.「p」などの口唇音は口輪筋(顔面神経)の働きにより作られ,「t」などの音は舌筋(舌下神経)で,「k」などの咽頭音は咽頭筋(舌咽・迷走神経)で作られる.顔面神経核は橋に,舌下神経核と舌咽・迷走神経の源である疑核は延髄に存在し,同部位の障害により神経原性構音障害を生じる.また,構音は小脳系・錐体外路系でも調節されており,それらの障害でも構音障害が生じうる.神経原性嚥下機能障害には舌咽・迷走・舌下神経が関与するとされ,舌咽・迷走神経は口蓋・咽頭機能と関係し,舌下神経は舌の運動に関与する.
延髄の舌咽・迷走・舌下神経の運動核の障害によって起こる運動麻痺は球麻痺と呼ばれる下位運動ニューロン障害であり,強い構音・嚥下障害をきたす.一方,上位運動ニューロン障害である仮性球麻痺とは,延髄病変がないにもかかわらず延髄運動神経核に障害があるようにみえるもので,両側皮質延髄路の障害で生じる.