症候を診るポイント
●まれではあるが生命にかかわる脳動脈瘤による動眼神経麻痺を見逃さず脳神経外科へ送る.
●比較的よくある重症筋無力症を適切に診断して脳神経内科医へコンサルト.
●よくある腱膜性眼瞼下垂を正しく診断し手術適応を考える.
▼定義
正面を向いたときに片側または両側の上眼瞼縁が瞳孔の上まで十分に上がっていない状態をさす.指標として眼瞼裂(palpebral fissure:PF)や眼瞼縁角膜反射距離(margin reflex distance-1:MRD-1)(図1-22図)を測定すると客観性がある.わかりやすい指標として,上眼瞼縁が瞳孔にかかっていれば明らかな眼瞼下垂とする.
▼病態生理
眼瞼下垂は上眼瞼を支える筋肉や神経の機能不全で生じる.上眼瞼を支える筋肉は2つ,1つは横紋筋の上眼瞼挙筋で動眼神経(Ⅲ)支配,もう1つは平滑筋のMüller(ミュラー)筋で交感神経支配である.一方筋肉や神経に異常がなくても,上眼瞼挙筋末端部の腱がさまざまな原因で伸びたりゆるんだりして腱膜性眼瞼下垂(aponeurotic ptosis)を生じる.その場合は挙筋機能(levator function)は正常である(挙筋機能の測定は上眼瞼挙筋機能をみる検査で,まず眉毛を押さえて前頭筋の収縮を使わないようにさせ,次に最下方と最上方を見たときの上眼瞼縁の移動距離を測定する.正常値は12mm以上).眼瞼下垂があると無意識にまぶたを上げようと前頭筋が収縮するため,通常は額に皺が寄って眉毛が吊り上がっている.
▼初期対応
日の単位で急に出現した眼瞼下垂は急いで対応する.同側の散瞳と対光反射消失を伴う動眼神経麻痺は内頸動脈後交通動脈分岐部(internal carotid artery-posterior communicating artery:IC-PC)動脈瘤拡大の可能性が高く,ただちに頭部MRI