▼定義
胸膜中皮細胞を起源細胞とする悪性腫瘍.
▼病態
職業的にあるいは居住環境で吸入したアスベストが胸膜直下に到達し,少なくとも20年以上の慢性刺激を中皮に与えることにより中皮細胞の腫瘍化を促すと考えられている.この変化は壁側胸膜で生じ,胸膜の広い範囲で同様に生じうる.いったん発生した腫瘍は胸膜にそって進展する傾向が強いため,発見された際にびまん性に腫瘍を認めることが多い.したがって,悪性胸膜中皮腫はびまん性悪性胸膜中皮腫を指すことが多い.腫瘍の進展に伴いリンパ節への転移を認めることがあるが,局所浸潤傾向の強い腫瘍であり胸水貯留や拘束性肺障害を生じ呼吸困難・呼吸不全をきたす.
▼疫学
厚生労働省の人口動態調査によれば,中皮腫による死亡者数はわが国では増加傾向にある.中皮腫の発症はアスベスト曝露から20~50年であることが知られている.すでにアスベスト使用規制を行って50年以上が経過した米国では中皮腫死亡者数の減少傾向が認められる.わが国の本格的なアスベスト使用規制は2004年からであるので,2050年までは中皮腫による死亡者数は増加傾向を示すと推定される.アスベストには職業曝露があることから,男性に多い.
▼分類
WHO分類に基づき,病理組織所見上,上皮型(約60%),肉腫型(約10%),上皮型と肉腫型が混在する二相型(約30%)に分類する.
▼診断
画像診断には胸部CTが有用であり,胸水貯留とびまん性・広範囲の胸膜肥厚が特徴的所見である(図2-74図).病理診断によく用いられるのは胸水細胞診であるが,反応性中皮細胞や肺腺癌細胞などとの鑑別が非常に難しくセルブロックを作成し免疫組織化学的検査を行えるようにすることが推奨されている.診断のゴールドスタンダードは胸腔鏡を用いた十分な検体量の組織診であり,ガイドラインなどでも推奨されている.カルレチニンやサイトケラチン5/6,WT-1