▼定義
心外膜側を走行する冠動脈の攣縮により血管内腔が狭小化して一過性に血流が低下し,心筋虚血が引き起こされることによって発生する狭心症(supply ischemia/primary angina)である.
▼病態
多くの場合,先行する血圧や心拍数の上昇などの心筋酸素消費量の増大を伴わないことから労作性狭心症に代表されるdemand ischemia/secondary anginaとは区別される.冠攣縮は狭心症のみならず,急性冠症候群や重症不整脈,心臓性突然死など多岐にわたる心疾患の発症に深く関与し,循環器領域において重要な病態の1つである.冠攣縮は心臓の表面を走行する比較的太い冠動脈局所の収縮能の亢進が原因と考えられ,血管平滑筋の過収縮が主たる要因である.血管平滑筋の収縮は,細胞内カルシウム濃度の増加によるミオシン軽鎖のリン酸化によって誘導されるが,冠攣縮の病態において細胞内カルシウム濃度非依存的に血管平滑筋の収縮弛緩反応を制御するRhoキナーゼの活性化が主因になっている(図3-12図).
▼疫学
冠攣縮は欧米人に比べアジア人に多く認められるといわれていたが,最近の報告では,欧米人でも日本と同等の頻度であるとされる.その頻度は狭心症全体の約40%とされている.
▼分類
異型狭心症(variant angina)は冠攣縮性狭心症の一種と考えられ,安静狭心症のなかで,発作時心電図で一過性ST上昇が認められるものを指す.冠攣縮による冠動脈の完全または亜完全閉塞による貫壁性虚血を示すと推察される.
▼診断
以下の場合,冠攣縮狭心症の確定診断が得られる.
1)胸痛発作時の心電図所見上,12誘導心電図で関連する2誘導以上における一過性の0.1mV以上のST上昇または0.1mV以上のST下降か陰性U波の新規出現が記録された場合.
2)胸痛発作時の心電図所見が境界域の場合は,病歴,発作時の状況