▼定義
狭心症と同様の可逆的な心筋虚血が存在するにもかかわらず,胸痛などの自覚症状を伴わない場合を無症候性心筋虚血とよぶ.
▼病態
高齢者,陳旧性心筋梗塞患者,糖尿病患者では心筋虚血を生じた際に無症状である頻度が高い.無症候の原因として,痛覚閾値が高いことのほか,血中βエンドルフィン増加,心臓自律神経障害の関与が指摘されており,疼痛閾値の修飾には内因性オピオイドや炎症性サイトカインなど,多くの因子が関与することが知られている.
▼疫学
安定狭心症患者や急性期を過ぎた心筋梗塞患者の20~50%に無症候性心筋虚血が認められるといわれる.
▼分類
Cohnらにより以下の3種類に分類されている.Ⅰ型:無症候で冠動脈疾患の既往もないが,心筋虚血がある.Ⅱ型:明らかな心筋梗塞の既往があり,心筋虚血が存在する.Ⅲ型:有症候性と無症候性の心筋虚血が混在する.
▼診断
無症候性心筋虚血は1960年代に開発されたHolter(ホルター)心電図を用いて,日常生活時の心電図波形から診断されるようになった.心筋虚血の有無の評価には,Holter心電図,運動負荷心電図,負荷心筋シンチグラフィ検査が用いられる.無症候でありながら,それら検査で心筋虚血が証明されれば無症候性心筋虚血と診断できる.高度の虚血異常所見を認め,高リスクである場合は冠動脈形態評価のため冠動脈造影検査を考慮する.
▼治療
一般的に治療は有症候性の狭心症症例に準じる.冠攣縮の関与が疑われる場合は発作予防として長時間作用型カルシウム拮抗薬を開始する.
▼予後
1970~1990年代に行われた研究から,無症候性心筋虚血の存在は,虚血性心疾患の既往の有無に関係なく,心事故の独立した予後予測因子であることが示されている.アスピリン薬薬,β遮断薬,スタチン,ACE阻害薬,カルシウム拮抗薬,硝酸薬による至適内科治療は安定狭心症症例における予後改善効果が示され