▼定義
1772年に英国の医師William Heberdenが歩行中に胸部の不快感を生じる病気を報告したのが,虚血性心疾患の初めての報告といわれているが,彼はこの病気をangina pectoris(狭心症)と名付けた.虚血性心疾患とは心臓の栄養血管である冠状動脈の病的状態によって起こる心筋虚血を原因として発症する急性あるいは慢性の心疾患である.冠状動脈の病的状態の代表的なものには粥状硬化やれん縮があるが,先天奇形や血管炎などもその原因になりうる.心筋虚血を病態の主体として定義すれば虚血性心疾患とよび,冠状動脈の病的状態を原因とする立場では冠状動脈疾患とよぶが,両者はほぼ同義である.
▼分類
虚血性心疾患のなかには心筋が虚血になり,一時的に胸痛を感じさせる狭心症と,冠状動脈が突然閉塞し,心筋が壊死に陥る心筋梗塞がある.安定狭心症は狭心症の起こる頻度や閾値の変動のみられないものをいい,多くは安定した粥腫による狭窄病変から起こる労作狭心症で,病状が1か月以上安定しているものを指す.冠攣縮性狭心症は冠状動脈の異常収縮により起こるが,そのなかで夜間あるいは早朝の安静時に起こり,心電図上ST上昇を伴うものを異型狭心症とよぶ.一方,不安定狭心症や心筋梗塞など冠状動脈の急激な閉塞に伴う病態を急性冠症候群(acute coronary syndrome)とよんで,粥腫の破綻とそれに続く血栓性の閉塞を原因とした病態としてまとめて表現されるようになった.また糖尿病症例や高齢者などでは,虚血があるにもかかわらず,胸痛を感じないことが比較的多く,無痛性心筋虚血とよばれている.さらに冠状動脈疾患の終末期の病態として広範な心筋虚血および壊死により,高度の心機能低下をもたらし心不全症状を示す虚血性心筋症と,心筋虚血を原因として突然死をきたす心臓突然死も虚血性心疾患の一病態である.
▼冠状動脈の解剖生理
冠
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