診療支援
治療

【3】急性冠症候群
acute coronary syndrome(ACS)
中村 正人
(東邦大学医療センター大橋病院・循環器内科教授)

疾患を疑うポイント

●中高年で冠危険因子を有する症例.

●突然発症した前胸部痛,圧迫感,絞扼感で冷汗,嘔気など随伴症状を伴う.

●20分以上持続する,新たに出現するようになった胸痛,より軽度の労作や安静時に生じるなど増悪する胸痛はACSを疑う.

学びのポイント

●ACSは粥腫の破綻と血栓を共通の基盤とする病態を指し,心筋梗塞,不安定狭心症,心臓突然死が包括される.

●心筋壊死は心内膜側から心外膜側へ経時的に進展する.心筋の壊死は不可逆的であり,40%以上の左室心筋が一気に壊死に陥ると心原性ショックを呈する.

●ACSはST上昇の有無で初期のトリアージがされ,ST上昇型ACSは冠動脈の完全閉塞が示唆される病態で緊急での再灌流療法が選択される.非ST上昇ACSは短期リスクの評価を行い,高・中等度リスク症例は早期侵襲的治療戦略を選択する.

●ST上昇を認める誘導から責任冠動脈の推測が可能であり,経時的な心電図変化から発症からの経過が推測可能である.また,心筋マーカーは特異性が高く,迅速に測定が可能なマーカーが臨床的に有用であり,高感度トロポニンが推奨されている.

●心筋梗塞における機械的合併症には乳頭筋断裂,心室中隔穿孔,左室自由壁破裂がある.救命には外科的な根治術が必要である.

▼定義

 急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は特定の疾患を指すのではなく,不安定狭心症,急性心筋梗塞,心臓突然死を包括した病態である.不安定な粥腫(プラーク)の破綻と血栓を共通の基盤とした一連の急性イベントをスペクトラムとしてとらえるという考え方である(図3-13)

▼病態

 病理学的な検討は不安定プラークの特徴として①薄い線維性被膜,②大きな脂質コア,③マクロファージを中心とした炎症細胞の浸潤,④陽性リモデリング,⑤微細な石灰化,⑥プラーク内の栄養血管の増殖などを挙げている.ACSの60

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?