診療支援
治療

【3】急性心不全
acute heart failure
筒井 裕之
(九州大学大学院教授・循環器内科学)

▼定義

 心臓の構造的および/あるいは機能的異常が生じることで,心ポンプ機能が低下し,心室の血液充満や心室から末梢への血液の駆出が障害されることで,種々の症状・徴候が複合された症候群が急性に出現あるいは悪化した病態.

▼病態

 急性心不全の病態には以下のようなものが含まれる.

肺水腫

 充満圧が上昇するために急性に発症する.全身性浮腫は軽度だが,体液量は正常または低下している場合もある.血管性要因が関与している.

全身性浮腫

 慢性の充満圧・静脈圧・肺動脈圧の上昇が原因で,緩徐に進行する.肺水腫は軽度だが,腎・肝などの臓器障害や貧血・低アルブミン血症を認める.

低灌流

 急性あるいは緩徐に発症する.肺水腫や全身性浮腫は軽度である.低血圧・ショックの有無で2つの病型にわけられる.

急性冠症候群

 急性心不全の症状あるいは徴候が現れる.ただしトロポニンが単独で上昇するケースは該当しない.

右心機能不全

 急性あるいは緩徐に発症する.肺水腫はない.右室機能障害と全身的静脈うっ血徴候がみられる.

▼疫学

 わが国における2013年の急性心不全の入院患者数は,2018年には約12万7,000人と増加し,同年の急性心筋梗塞患者数の約7万5,000人より多い.発症年齢,性別,既往歴としての高血圧,糖尿病,脂質異常症はわが国と欧米の間に大きな相違は認められない.しかしわが国では急性心不全の基礎心疾患としての虚血性心疾患の頻度は比較的低く,高血圧性心疾患の割合が高い.

▼分類

クリニカルシナリオ(clinical scenario:CS)分類

 初期対応のために提唱されたもので以下の3つに分類される.

①急性肺水腫

②全身的な体液貯留(溢水)

③低心拍出・低灌流・心原性ショック

 1つの病態ではなく,どの病態が主体かを再評価し,治療に活かす.

心不全入院歴による分類

①新規心不全

②再入院心不全(心不全入院歴あり)

 急性心不全

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