疾患を疑うポイント
●心囊液の貯留で,若年~高齢者に発症しうる.
●急性心膜炎を起こす原因と共通している.
●呼吸困難感を訴える患者で,下腿浮腫,顔面浮腫,腹水など右心不全徴候を認める場合に本疾患を疑う.
学びのポイント
●心囊液貯留の量とともに速度によって症状の発症の仕方は異なる.急激な貯留の場合には,少量の心囊液貯留であっても呼吸困難や血行動態の破綻が急激に起こる.緩徐に貯留した場合,週~月単位で症状が出現する場合もある.
●心電図で低電位や電気的交互脈,心エコーにて心囊液貯留を認める.
●心囊穿刺により心囊液の性状(漏出性,滲出性)を鑑別する.
●迅速な心囊穿刺,あるいは手術によって,心囊液をドレナージする.
▼定義
心膜液貯留により,静脈還流が障害され,心室充満低下と心拍出量低下を生じた病態.
▼病態
静脈還流の障害により,静脈圧上昇,心室充満低下,心拍出量低下が起こる.代償機構として心拍数増加と末梢血管抵抗の上昇が起こる.心タンポナーデでは,吸気時に胸腔内圧と心膜腔圧が低下し,右房圧低下が起こり,静脈還流量が増加,右室充満が増加して心室中隔が左室側にシフトする.それにより,左室充満低下と心拍出量低下が起こる.特に,吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上低下するとき,奇脈(paradoxical pulse)という.
▼疫学
大量の心囊水貯留の原因検索をしても原因が特定できない患者のうち約20%は悪性腫瘍によるものであることが後に判明する.
▼分類
心タンポナーデの原因から分類される(表3-29図).
▼診断
➊臨床症状
心膜腔内に急激に出血した場合には,ショックとなる.進行が緩徐な場合,呼吸困難感,胸痛などを訴える.末梢は冷たく,湿潤.Beck(ベック)の三徴(静脈圧上昇,血圧低下,心音の微弱化).頻脈,奇脈,肝腫大を認める.
➋検査成績
心電図検査では,洞性頻脈,低電位,電気的交互脈を認める.