診療支援
治療

2 大動脈弁閉鎖不全症
aortic regurgitation(AR)
中谷 敏
(大阪大学大学院教授・機能診断科学)

疾患を疑うポイント

●拡張期雑音を聴取すれば大動脈弁閉鎖不全症の可能性を考える.

●若年者では二尖弁による大動脈弁閉鎖不全症も考える.

●労作時息切れが主症状.

●通常は徐々に症状が出現するが,急性大動脈弁閉鎖不全症では非常に激しい心不全症状で発症することがある.

学びのポイント

●心エコー検査でカラードプラ法による逆流シグナルを認めれば診断がつくが,断層法で形態的異常も確認しておく.

●二尖弁では大動脈拡張や大動脈縮窄などの大動脈異常を認めることがあるので,必ず大動脈の評価も行っておく.

●手術適応は症状と心機能と心拡大の程度で決定される.至適手術時期を逃さないよう心エコー検査による経時的評価が重要.

●治療法としては大動脈弁置換術が一般的であるが,症例によっては大動脈弁形成術が行われる.大動脈異常がある場合には同時に大動脈への介入も行われる.

▼定義

 種々の病因により大動脈弁弁尖間の接合が悪くなって拡張期に大動脈から左室へ逆流が生じる疾患.病因は大きく弁そのものの異常大動脈の異常に分けて考えることが多い.前者にはリウマチ性弁疾患,先天的弁異常(二尖弁,四尖弁),加齢変性,感染性心内膜炎,弁尖逸脱など弁自体の器質的変性のために弁尖の接合が悪くなって生じるものがあり,後者には大動脈弁輪拡張症,Marfan(マルファン)症候群,上行大動脈瘤,大動脈解離など大動脈基部の拡大に伴って接合が浅くなって生じるものがある.表3-34に病因を示す.また弁形態による分類もある(図3-75).さらに感染性心内膜炎や大動脈解離に伴うものなど急性発症のARとそれ以外の慢性ARに分けることもある.

▼病態

 逆流は左室に対する容量負荷となる.そのため一回拍出量が増加,収縮期血圧も上昇し,左室には圧負荷も加わることになる.また逆流が高度になると拡張期の大動脈内血流が減少するため拡張期血圧は低下し脈圧が増大する.

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