疾患を疑うポイント
●胸部X線で上行大動脈の拡大をみたら疑う.
●無症状であっても精査が必要.
学びのポイント
●Marfan症候群や二尖弁では弁輪拡大の可能性を考えて精査.
●進行する可能性があるので経時的なフォローが必要.
●大動脈弁逆流の重症度評価と中心性逆流ジェットかどうかの判断は治療法決定に重要.
▼定義
大動脈弁輪および大動脈基部の拡大をいう.組織学的には大動脈壁中膜の囊胞状壊死であり,中膜の弾性線維の変性,断裂,減少を生じる.このため大動脈壁が脆弱になり,内腔の圧によって大動脈弁輪部や大動脈基部が拡大し,その結果,大動脈弁の三つの弁尖の接合が浅くなって大動脈弁逆流を生じる.よく知られているのはMarfan(マルファン)症候群に合併するものであるが,二尖弁,Ehlers-Danlos(エーラス-ダンロス)症候群や妊婦,高血圧,弁膜症でも認められる.しかし原因不明の大動脈弁輪拡大も少なくない.その他に巨細胞性血管炎,大動脈炎症候群などの血管炎,Behçet(ベーチェット)病,強直性脊椎炎,Reiter(ライター)症候群でも大動脈基部の拡大を認める.
▼診断
➊臨床症状
大動脈弁逆流の進行による心不全症状や急性大動脈解離が起こらないかぎり大動脈弁輪拡大だけでは無症状であり,たまたま撮った胸部X線写真や心エコーで発見されることが多い.Marfan症候群例の検査中やその家系の調査中に無症状の大動脈弁輪拡大を発見することもある.なおMarfan症候群や二尖弁では無症状であっても大動脈基部の拡大は進行していくので経時的観察が必要である.
➋検査成績・診断
1)胸部X線写真
上行大動脈,大動脈基部の拡大を認める.高度大動脈弁閉鎖不全症を伴うと左第4弓が突出し,心胸郭比も大きくなる.
2)心エコー検査
断層法で弁輪およびValsalva(バルサルバ)洞を含む上行大動脈基部の拡大を認める(図3-78図)