疾患を疑うポイント
●明らかな原因を認めないが,易疲労感,倦怠感,脱力感,気分不良,頭重感,ふらつき,めまいなどの自覚症状がみられる.
●若年女性に多い.
▼定義
明らかな原因・基礎疾患がなく,体位変化に影響されず,収縮期血圧が100mmHg未満である慢性的な低血圧を本態性低血圧と定義する.
▼病態
低血圧の基本的病態は,全身の血液量分布の調節異常あるいは急性の循環血液量の減少である.静脈は動脈の約200倍の伸展性を有するため血液の大部分は低圧系に分布する.すなわち,全血液量のうち,全身の動脈・左心室といった高圧系に約15%,全身の静脈・右心房・右心室・肺動静脈・左心房といった低圧系に約85%が分布している.この分布比率は自律神経系により常時調整をうけ変動する.高圧系は動脈圧受容器反射,低圧系は心肺圧受容器反射によって神経制御される.前者は頸動脈洞および大動脈弓,後者は心肺および大静脈に存在する圧受容器が,血管内圧低下を感知すると,求心性迷走神経を経て血管運動中枢(延髄孤束核,頭側延髄腹外側野)を介して遠心性交感神経を賦活化し,全身動静脈の収縮,心収縮力・心拍数の増加により血圧を上昇させる.一方,血管内圧が上昇すると逆の反射制御により交感神経活性が抑制され,血圧を低下させる.圧反射のパワーは動脈圧受容器反射が圧倒的に強いが,動脈圧受容器反射は全身の動脈圧が変化した際にのみ作動する.したがって,安静時に主に作用しているのは低圧系の血管内圧,すなわち,静脈還流量を検知している心肺圧受容器である.
本態性低血圧の原因は,低圧系への血液移動による高圧系の血液減少で,心肺圧受容器反射の異常が背景にあると考えられる.すなわち,心肺圧受容器の感受性がなんらかの原因で過剰に亢進していることにより,静脈還流量が増加していると誤認され交感神経活性が抑制されるため,静脈が拡張し血液が低圧系に貯留する.こ