診療支援
治療

3 起立性低血圧
orthostatic hypotension
甲斐 久史
(久留米大学医療センター教授・循環器内科)

疾患を疑うポイント

●仰臥位または坐位から立位への体位変換に伴い,易疲労感,倦怠感,脱力感,気分不良,ふらつき,めまい,眼前暗黒感,失神をきたす場合には起立性低血圧を疑う.

●高齢者や糖尿病では常に起立性低血圧の可能性を考慮する.

●薬物治療の有無にかかわらず高血圧患者には起立性低血圧の合併が多い.

▼定義

 起立性低血圧は,国際的コンセンサスとして,仰臥位または坐位から起立後3分以内の収縮期血圧20mmHg以上,拡張期血圧10mmHg以上低下と定義される.

▼病態

 健常者では,起立により300~800mLの血液が下肢および腹部臓器に貯留することから,静脈還流が減少する.そのため,心拍出量と血圧が一過性に低下するが,頸動脈洞と大動脈弓の動脈圧受容器反射が作動し,遠心性交感神経賦活化および遠心性副交感神経抑制を介する代償機能により,心拍数と末梢血管抵抗が増加し,心拍出量と血圧が維持・回復する.循環血液量減少,過度の静脈還流減少,動脈圧受容器反射障害のため,代償が不十分な場合,起立性低血圧をきたす(表3-47).起立性高血圧は高齢者に多く,65歳以上で約20%,75歳以上では約30%に認められる.体液量減少や血管拡張作用を有する薬剤が発症を助長する.糖尿病性起立性低血圧の頻度は6~32%といわれ,糖尿病の罹病期間や重症度と相関する.

▼診断

典型的症状の確認

 仰臥位や坐位から立位への体位変換の直後から数分以内に脳血流低下による立ちくらみ,脱力,めまい,眼前暗黒感,失神などが出現する.臥位に戻ることで症状が消失することが多い.高齢者では無症状のことも多く,失神が初発症状となることもある.糖尿病では早期から自律神経障害による動脈圧受容器反射機能不全のため,しばしば重症の起立性低血圧を引き起こす.

起立負荷試験

1)能動的起立負荷試験

 外来でも簡便に実施できるため,起立性低血圧が疑われる場合には積

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