▼定義
四肢筋膜より深部の静脈に発生した血栓症のことをさし,それより中枢側に位置する骨盤内または胸腔内における静脈,つまり腸骨静脈,下大静脈,腕頭静脈,上大静脈内の血栓症も含む.
▼病態
Virchow(ウィルヒョウ)の三原則として知られる①静脈の内皮障害,②血液の凝固亢進,③静脈の血流停滞のいずれかにより血栓形成が促進される.血栓による静脈閉塞のため還流障害をきたし,末梢側にうっ滞症状をもたらす.さらに新鮮血栓は遊離しやすく,肺動脈内に流入することで肺血栓塞栓症を引き起こす.静脈内にいったん生じた血栓は線溶系により完全に溶解されるか,または器質化・退縮し残存する.血栓が消退した場合でも,血栓が生じた際に惹起された炎症などにより,静脈弁は障害され,うっ滞症状を呈する血栓後症候群(post-thrombotic syndrome:PTS)をきたすことがある.
▼疫学
診断率の向上,高齢者の増加,生活習慣の変化などにより,発生率は増加傾向にあり,2006年の厚生労働省調査では年間10万人あたり12人と推計されている.欧米と比較するとまだ約1/4程度であるが,10年間で約30倍に増加している.
性差に関しては国内では女性の比率が若干高い傾向にある.DVTの誘因・危険因子については悪性疾患が最も多く,約1/4を占める.
▼分類
下肢においては血栓症の存在部位によって分類され,膝窩静脈から中枢側については中枢型(近位型),それより末梢側については末梢型(遠位型,下腿限局型)とし,症状の有無によって症候性または無症候性と称す.
▼診断
症状,危険因子の保有(表3-56図)などからDVTが疑われた場合,静脈エコーを行い,確定診断する.
➊症状
典型例では急性に発現する片側性の下肢腫脹,疼痛,浮腫,暗赤色の色調の変化を認める.ただし,症状が軽度な場合も多く,発症後時間が経過してからの受診例も多い.