診療支援
治療

2 血管外傷
traumatic vascular injury
種本 和雄
(川崎医科大学教授・心臓血管外科学)

疾患を疑うポイント

●胸部,腹部,四肢など,損傷箇所によって損傷血管と病態は異なる.

●鈍的外傷は,交通事故,転落などに加えて,児童虐待やDVによっても起こる.

学びのポイント

●胸部鈍的外傷による大動脈損傷の好発部位は,大動脈峡部(左鎖骨下動脈起始部のすぐ遠位部).

●胸部大動脈損傷に対しては解剖学的に可能であればステントグラフト内挿術が第一選択となる.

●骨盤内の後腹膜出血に対しては,TAEによって出血をコントロールする.

●出血が続いている四肢血管外傷では,ターニケットによる止血が救命に有用.

●四肢の筋区画内の出血ではコンパートメント症候群に注意を払う.

▼定義

 血管外傷は全身のあらゆる部位で起こりうるが,胸部,腹部,四肢ではそれぞれ対応が異なる.また心臓外傷と同様に,穿通性,鈍的外傷,医原性に分けて考えると理解しやすい.

▼病態・疫学

 胸部・腹部の鈍的外傷は交通事故,転落などの高エネルギー外傷によるものが多いが,小児虐待や家庭内暴力(domestic violence:DV)でも同様の病態をとることがある.

 穿通性外傷による胸部血管損傷の発生は穿通性心臓損傷と同様な機序が多いが,心臓より銃創が多い傾向がある.胸部大動脈の鈍的外傷の好発部位は大動脈峡部(左鎖骨下動脈起始部のすぐ遠位部)であるが,ほかの部位にも起こることがある.鈍的胸部大動脈損傷の重症度はTypeⅠ(内膜亀裂にとどまる),TypeⅡ(大動脈壁内血腫),TypeⅢ(仮性動脈瘤),TypeⅣ〔破裂(大動脈周囲血腫,free rupture)〕の4段階に分類され,治療方針が異なる.

 腹部外傷は鈍的外傷が最も多い.鈍的外傷では腹部実質臓器の出血が多く,直接的血管損傷に至るものはあまり多くはない.一方で,骨盤骨折などでは骨盤内動静脈の損傷がしばしば経験される.穿通性腹部外傷は刺創に代表される.腹腔内の血管が損傷されることがあるが,

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