▼定義
日常診療において,胸痛や動悸など,心臓周辺や前胸部,背部などを主体とした愁訴がありながら,あらゆる身体学的所見や画像所見,血液検査所見に際立つ異常所見を認めないといった症例を経験し,これを心臓神経症と定義している.あるいは心気症,パニック障害,身体表現性障害などと診断される場合もあり,類縁した病態や診断名がほかにも多数存在しており,その鑑別や診断区分の選定に迷うこともある.このため精神科や心療内科医による管理を要するケースもあり,相互の情報提供が必要である.
▼疫学
心臓神経症の頻度は不明であるが,胸痛を主訴に受診する救急患者の20%前後に認め,循環器専門医を受診する外来患者の30~60%が心臓神経症やうつ病であるといわれる.年齢は思春期から30歳代前半までと中年期に多くなり,特に女性の更年期や高齢者でもみられ,女性が男性の約2倍多い.
▼病態
心臓神経症の発症には,準備因子,誘発因子