診療支援
治療

【6】心臓神経症
cardiac neurosis
諸岡 俊文
(山元記念病院・循環器内科部長)
野出 孝一
(佐賀大学教授・循環器内科)

▼定義

 日常診療において,胸痛や動悸など,心臓周辺や前胸部,背部などを主体とした愁訴がありながら,あらゆる身体学的所見や画像所見,血液検査所見に際立つ異常所見を認めないといった症例を経験し,これを心臓神経症と定義している.あるいは心気症,パニック障害,身体表現性障害などと診断される場合もあり,類縁した病態や診断名がほかにも多数存在しており,その鑑別や診断区分の選定に迷うこともある.このため精神科や心療内科医による管理を要するケースもあり,相互の情報提供が必要である.

▼疫学

 心臓神経症の頻度は不明であるが,胸痛を主訴に受診する救急患者の20%前後に認め,循環器専門医を受診する外来患者の30~60%が心臓神経症やうつ病であるといわれる.年齢は思春期から30歳代前半までと中年期に多くなり,特に女性の更年期や高齢者でもみられ,女性が男性の約2倍多い.

▼病態

 心臓神経症の発症には,準備因子,誘発因子,持続・増悪因子があると思われる.準備因子とは,本人のパーソナリティや幼小児期の不安体験あるいは実社会での心理的ストレスに代表される.また誘発因子として,ある時点で発生した偶発的な急性の身体疾患や精神的ストレスによる初発症状がある.こうしてひとたび形成された不安は,交感神経亢進をきたして誘発される新たな症状,めまい,ふらつき,頭痛,胸痛,動悸といった症状を引き起こし,不安と症状の悪循環が生まれる.この悪循環の形成と長期化には患者特有の考えや症状が起こらないようにする回避行動もかかわってくる.ひとたび症状を感じてしまうと常に心臓のほうに注意が向き,不安がすぐに頭をよぎるようになるためさらなる不安を強めていく.こうしてこの悪循環から逃れられなくなってくるのが心臓神経症の特徴である.

▼診断

 心臓神経症は,不安を基調とする精神障害が前面に出る病態であるが,身体症状を強く訴えるいわゆる神経循環無力症

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