診療支援
治療

(1)ブールハーフェ症候群
Boerhaave syndrome
磯本 一
(鳥取大学教授・機能病態内科学)

▼定義

 Boerhaave(ブールハーフェ)症候群は特発性食道破裂ともいわれ,特に器質的疾患を有することなく発症し,食道内圧の急激な上昇により食道全層が破裂するまれな疾患である.

▼病態

 嘔吐などを原因として急激に食道内圧が上昇することにより,食道全層が自然破裂する.大量飲酒後,嘔吐後の発症が典型的であるが,咳嗽,排便,分娩などが誘因となることもある.好発部位は下部食道左壁である.解剖学的に下部食道は,前方が心臓,右側は大動脈,後側は脊椎により支持されているが,左側には支持組織がないこと,胃からの圧力が左上方にかかることが考えられている.破裂の大きさや発症後の時間経過で病態が変化するため,症候から本症を疑い早期に診断することが重要である.対応の遅れは,病態を重篤化させ,縦隔炎,気胸,膿胸などを併発し,呼吸不全,循環不全,敗血症,ひいては多臓器不全をきたし,死にも至らしめることを留意する.

▼症候

‍ 嘔吐後に続発する突然の激しい胸骨後部痛,胸痛,心窩部痛を自覚する.肩・背部への放散痛を伴う場合がある.また,呼吸困難をきたしショック状態に陥ることもある.縦隔気腫,気胸に伴う低酸素血症・呼吸不全,さらに,時間経過とともに,縦隔炎,縦隔膿瘍,膿胸の併発とそれらに伴う敗血症から多臓器不全をきたす.

▼診断

 病歴の聴取が重要である.身体所見では前胸部から頸部にかけて皮下気腫(握雪感)を認めることもある.特徴的な発症と,胸部X線写真で,縦隔気腫,皮下気腫,気胸,胸水などの所見があれば本疾患を強く疑う.CT検査は縦隔内のガスを高感度に検出でき有用である(図4-21).上部消化管内視鏡検査は,穿孔部位や大きさの確認に有用であるが,嘔吐を誘発し破裂を拡大させる可能性もあるため,全身状態の悪い患者には施行しない.水溶性造影剤を用いた食道造影により,破裂部からの造影剤の漏出を認めれば確定診断できる.鑑

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