疾患を疑うポイント
●急激な上腹部痛,悪心で発症し,時に嘔吐,吐血がみられる.
●NSAIDsの内服や身体的・精神的ストレス環境下にある.
学びのポイント
●高齢社会に伴い使用頻度が増し,多くの市販医薬品(感冒薬など)にも含まれているNSAIDsがAGMLの発生要因として最多である.
●高齢者や喫煙者,基礎疾患(動脈硬化,糖尿病,腎不全,肝硬変など)を有する場合にAGMLを発症しやすくなる.
▼定義
急激な上腹部症状とともに,内視鏡検査で多発性のびらんや潰瘍などの胃粘膜所見を認める疾患.
▼病態
成因は薬剤やアルコール,ストレスなど多岐にわたる(表4-3図).NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ活性阻害によりプロスタグランジン(PG)の産生を抑制し,PGによる胃粘膜防御機構を障害する.アスピリンは,胃酸によって脂溶性となり,細胞膜を通過し直接細胞傷害をきたす.副腎皮質ステロイドでは胃酸分泌の亢進,粘液分泌の減少,粘膜再生障害などが関与している.アルコールは粘膜内の生理活性物質を遊離させ,血管透過性の亢進,血管の破綻,出血,壊死をきたす.ストレスは迷走神経を介して胃酸分泌を亢進し,自律神経や副腎皮質ステロイドを介して胃粘膜の微小循環障害をきたす.虚血再灌流が起こることにより活性酸素が発生し粘膜傷害が起こる.H. pylori感染時の粘膜傷害にも好中球の活性酸素が関与しているとされる.
▼疫学
薬剤性AGMLの約60%はNSAIDsが原因である.Curling(カーリング)潰瘍は重症熱傷患者の0.1~34%に,Cushing(クッシング)潰瘍は頭部外傷・脳手術後の1.9~54%に発生するとされる.精神的ストレスによるものもしばしば経験するが発生頻度は明らかではない.内視鏡を介したH. pylori感染によるものは,洗浄の徹底などによりほぼ認められなくなった.
▼分類
内視鏡像によって,急性胃炎,