疾患を疑うポイント
●急性下痢の原因の約90%が感染性腸炎である.
●嘔吐と水様下痢がみられる急性胃腸炎は小腸型の感染性腸炎が多くを占め,ウイルスや細菌の毒素が原因である.
●大腸型の細菌性腸炎では血便,粘液便,発熱,テネスムスなどの症状がみられるが,潰瘍性大腸炎をはじめとした他疾患との鑑別を要する.
学びのポイント
●問診では,症状とその発現時期,食歴,周囲の人の様子,最近の旅行歴(特に発展途上国),最近の抗菌薬使用歴,基礎疾患の有無などを聞く.
●急性細菌性腸炎の原因,潜伏期,臨床症状の特徴などを病型別に把握しておく(表4-16図).
▼定義
急性細菌性腸炎は食中毒によるものと抗菌薬関連腸炎があるが,本項では前者について述べる.汚染された水や食物を介して感染する細菌性腸炎である.
▼病態
発症機序は組織侵入性と毒素性がある.
➊組織侵入性
粘膜上皮侵入型はカンピロバクターやサルモネラが代表であり,上皮細胞に定着,侵入,増殖して上皮細胞を傷害して腸病変をきたす.
リンパ装置侵入型はチフス性疾患やエルシニアが代表であり,腸管リンパ装置に侵入,増殖し,リンパ装置の腫大や潰瘍・びらんをきたす.
➋毒素性
生体外毒素産生型は産生された毒素を含む食品による食中毒であり,黄色ブドウ球菌が代表であり,潜伏期が非常に短い.
生体内毒素産生型は菌が生体内で増殖し毒素を産生することで発症し,ウェルシュ菌や腸炎ビブリオなどが代表であり,一般に粘膜傷害が軽い.
▼疫学
国内の食中毒として発生数が多いのは,カンピロバクター腸炎,ウェルシュ菌腸炎などである.
▼分類
下痢の性状により,小腸型と大腸型に分類すると病態が理解しやすい.小腸型は,病原体・毒素による分泌物増加と水貯留が基本的な病態である.一方,大腸型は,病原体・毒素による粘膜破壊が基本的な病態である.ほかに穿通型があるが,罹患部位は回盲部であり,全身症状が前面に出