診療支援
治療

1 肛門周囲膿瘍,痔瘻
perianal abscess,anal fistula
渡辺 憲治
(兵庫医科大学特任准教授・腸管病態解析学)
内野 基
(兵庫医科大学准教授・炎症性腸疾患学)

疾患を疑うポイント

●肛門周囲膿瘍の症状は,肛門周囲における痛みを伴う腫脹と発赤や発熱である.

●痔瘻の症状は,持続的な膿の排出や間欠的な肛門周囲の腫脹・圧痛である.

学びのポイント

●大きな皮垂や多発痔瘻などを認めた場合,Crohn病を念頭に内科的精査を要する(図4-73)

▼定義

 痔瘻は肛門腺の初期感染巣から肛門括約筋の間や外側に伸びたもので,感染が悪化し膿瘍形成されると肛門周囲膿瘍に至る.

▼病態

 通常の痔瘻は肛門陰窩から侵入した細菌が肛門腺に初期感染を発生させ,炎症を惹起させるが,Crohn(クローン)病,結核,梅毒,HIVなどによる痔瘻は機序が異なる.

▼疫学

 わが国の痔瘻の有病率は30歳代30%,40歳代21%と若い世代に多く,痔瘻や肛門周囲膿瘍の男女比は2.2~5.1:1程度で男性に多い.

▼分類

 わが国では隅越分類が用いられる.

●Ⅰ型:皮下または粘膜痔瘻

 L:皮下痔瘻

 H:粘膜下痔瘻

●Ⅱ型:括約筋間痔瘻

 L:低位筋間痔瘻(S:単純性,C:複雑性)

 H:高位筋間痔瘻(S:単純性,C:複雑性)

●Ⅲ型:肛門挙筋下痔瘻

 U:片側性痔瘻(S:単純性,C:複雑性)

 B:両側性痔瘻(S:単純性,C:複雑性)

●Ⅳ型:肛門挙筋上痔瘻

▼診断

 視診,触診,肛門指診,肛門鏡検査のほか,経肛門的超音波検査,CT,MRI(図4-74),瘻孔造影などによる.

▼治療

 自然治癒は小児を除きまれで,外科的治療が基本となる.肛門周囲膿瘍の治療原則は切開排膿とドレナージで,治療困難例では抗菌薬も投与する.

 炎症性腸疾患や結核などによる痔瘻は,全身的な治療の優先ないし併用が必要である.

▼予後

 痔瘻を放置することで肛門周囲膿瘍を繰り返し,長期的にはまれに悪性化することもある.しかし,肛門括約筋障害があり,術後便失禁状態が危惧され,手術適応を慎重に判断せねばならない場合もある.

 痔瘻術後の便失禁発生率は一般的に低

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