診療支援
治療

1 鼠径ヘルニア
inguinal hernia
横山 純二
(新潟大学医歯学総合病院・光学医療診療部准教授)
寺井 崇二
(新潟大学大学院教授・消化器内科学)

▼定義

 鼠径部ヘルニアのうち,鼠径靱帯頭側で鼠径部に脱出するものを指す.外鼠径ヘルニア内鼠径ヘルニアに分類される.一方,大腿ヘルニアは鼠径靱帯直下に脱出するものを指す(図4-78)

▼病態

 外鼠径ヘルニアでは,腸管が内鼠径輪から,もともと存在する鼠径管を通って外鼠径輪へ脱出する.内鼠径ヘルニアでは,組織抵抗減弱部である下腹壁動静脈,腹直筋外縁,鼠径靱帯に囲まれたHesselbach(ヘッセルバッハ)三角から直接腹壁を貫通し,外鼠径輪へ脱出する.

▼疫学

 内鼠径ヘルニアに比べ外鼠径ヘルニアの頻度が高く,成人では80%程度を占める.外鼠径・内鼠径ヘルニアとも男性に多くみられ,小児では乳幼児期の男児に好発し,ほぼ全例が外鼠径ヘルニアである.内鼠径ヘルニアは中高年以降に多くみられ,加齢による組織抵抗の減弱と肥満による腹圧上昇の関与が指摘されている.

▼診断

 視診,触診にて,鼠径靱帯の頭側に腫瘤を確認する.隆起は腹圧に大きく影響され,立位でより明瞭となり,臥位や腫瘤を押すことにより腹腔内に還納される.小児では鼠径管を触診すると,ヘルニア囊がこすれ合う感触がみられることがあり,silk sign(シルクサイン,絹のすべる感じ)と表現される.外鼠径ヘルニアはヘルニア門が小さく,嵌頓をきたしやすい.嵌頓例では,局所の疼痛,発赤,腸閉塞による腹部膨満,嘔吐などがみられる.超音波検査やCT検査では,ヘルニア囊内に腹腔内から連続した腸管や脂肪組織の脱出所見がみられ,精索腫瘍や陰囊水腫などとの鑑別に有用である.また,造影CT検査は,嵌頓による脱出腸管の虚血,壊死の診断に有用性が高い.

▼治療

 姑息的にヘルニアバンド(脱腸帯)を装着する方法もあるが,自然治癒は期待できないため原則として手術を行う.また,嵌頓(絞扼)例は用手還納を試みるが,還納できない場合には緊急手術を行う.

 小児の場合には,ヘルニア囊

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