診療支援
治療

1 急性肝炎
acute hepatitis
井戸 章雄
(鹿児島大学大学院教授・消化器疾患・生活習慣病学)

▼定義

 急性肝炎は,主に肝炎ウイルスの感染により生じる急性びまん性肝疾患で,A,B,C,D,E型の5種類の肝炎ウイルスが確認されている.予後は一般に良好だが,1~2%の患者は劇症化し,一度劇症化すると致死率が高い.

▼病態

 急性肝炎は,ウイルス自体が肝細胞を傷害するのではなく,ウイルスに感染した肝細胞に対して,宿主の免疫反応により肝細胞が破壊されることにより生じる.病理所見では,肝臓全体に,肝小葉を中心とする肝細胞壊死や変性,類洞内へのリンパ球の浸潤やクッパー細胞の腫脹や貪食像がみられる.門脈域はやや浮腫性で,色素貪食細胞,リンパ球,その他の炎症性細胞の浸潤がみられる.

▼疫学

 わが国における急性肝炎の起因ウイルス別発症頻度は,A型約30%,B型約30%,C型約10%,非A非B非C型約30%である.D型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスと共存した形でのみ存在し,感染はきわめてまれである.E型肝炎は中部から関東以北に多く,北海道,東北地方における集団発生,流行例がみられる.

 感染経路は,A,E型は経口感染で,B,C,D型は経血液感染である.A型肝炎ウイルスの感染源は水や牡蠣などの海産物などで,生鮮野菜や冷凍イチゴなどの輸入生食材が感染源となったこともある.ウイルスは糞便中にも排泄されるため,家族内や施設内感染,性交渉での感染も問題となる.E型肝炎ウイルスは人畜共通感染症の原因ウイルスであり,豚,イノシシ,鹿肉などが感染源となる.B,C,D型肝炎ウイルスは輸血や汚染血液が付着した針の刺入などにより感染する.B型肝炎ウイルスは針汚染以外に性交渉による水平感染がみられる.C型肝炎ウイルスの水平感染はB型肝炎より少ない.

▼分類

 急性ウイルス肝炎の特徴について表5-4に示す.潜伏期は通常3~8週間の範囲であるが,B型,D型肝炎ウイルス感染では6か月間の潜伏期を示すこともある.また肝炎ウイルス

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