疾患を疑うポイント
●慢性肝疾患のない症例に,発熱,黄疸などを初発症状として発症する.
●PT-INR 1.5以上ないしはPT 40%以下の高度の肝機能障害を呈する.
学びのポイント
●B型のウイルス性を成因とするものが多かったが,最近ではウイルス性が減少し,自己免疫性,薬物性,成因不明の比率が増加している.
●欧米で主要な原因である薬物中毒に起因する症例は,わが国では少ない.
●非昏睡型では成因にかかわらず多くが救命されるが,昏睡型は内科的治療の予後が不良である.
●肝移植による救命率は高いが,治療対象がおおよそ65歳までに限られ,ドナーが圧倒的に不足している.
▼定義
正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ,初発症状出現から8週以内に,高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間が40%以下ないしはINR値1.5以上を示すものを「急性肝不全」と,わが国では診断する.2011年に厚生労働省研究班が発表した.なお,初発症状の出現から8週以降24週以内にⅡ度以上の肝性昏睡が発現する場合は,遅発性肝不全(late-onset hepatic failure:LOHF)と診断し,類縁疾患として扱う.
▼病態
病理組織学的には広汎ないしは亜広汎肝壊死を特徴とする.広汎肝壊死の生じる機序の1つに,肝類洞内凝固による微小循環障害の関与が想定されている.典型はA型,B型のウイルス急性感染例で,ウイルス感染に伴う各種サイトカイン産生や腸内細菌のbacterial translocationにより肝内にKupffer(クッパー)細胞の活性化や活性化したマクロファージの浸潤が生じる.それらの細胞が産生するTNF-αや活性酸素が内皮細胞を障害することで,肝類洞内凝固が惹起される.肝細胞死の分子生物学的機序については,TNF受容体やCD95(Fas/APO-1)などdeath receptorsを介