▼定義
糖尿病患者では血管性認知症のみならず,Alzheimer(アルツハイマー)型認知症の罹患率が高いことが明らかになり,認知症の重要な危険因子と考えられるようになった〔認知症については第10章の→も参照〕.
▼病態
糖尿病における認知症増加の詳細な機序は不明であるが,インスリン抵抗性やインスリンシグナル伝達障害は,Alzheimer病(Alzheimer disease:AD)の原因物質と推定されているアミロイドβ蛋白の代謝障害やリン酸化タウの産生を促進する機序や,高血糖が脳内の酸化ストレスや炎症などを引き起こし認知機能低下の原因となる可能性などが報告されている.
一方,糖尿病の治療に伴う低血糖と認知症発症の関連も注目されている.高齢2型糖尿病患者の追跡調査結果では,認知症の発症ハザード比が重症低血糖発作の経験数の増加に比例して段階的に上昇することが示されている.
▼疫学
糖尿病患者は糖尿病でない人と比べて認知症を起こしやすく,そのリスクは約1.5~1.7倍と報告されている.糖尿病は血管性認知症のみならず,ADの危険因子であり,Rotterdam(ロッテルダム)研究では糖尿病におけるADの発症リスクは約2倍,本邦の久山町研究においても同様な増加が報告されている.
▼診断
早期診断のスクリーニング検査としては,Mini-Mental State Examination(MMSE)が国際的にも広く用いられている.本邦では,改訂長谷川式簡易知能評価スケールも広く使用されている.ADにみられる画像所見としては,MRI検査における海馬領域の萎縮とCT検査における頭頂側頭葉の血流・代謝の低下である.後者の所見がADに比較的特徴的であるが,臨床的にADと診断される糖尿病患者のなかにはSPECTの異常を示さない例もみられ,高血糖や低血糖を含む代謝異常に由来する代謝性脳症の存在も示唆されている