診療支援
治療

3 リポジストロフィー(脂肪異栄養症,脂肪萎縮症)
lipodystrophy
井上 智彰
(九州大学大学院・病態制御内科学)
小川 佳宏
(九州大学大学院教授・病態制御内科学)

▼定義

 リポジストロフィーは皮下脂肪や内臓脂肪などの脂肪組織が全身性あるいは部分性に減少あるいは消失する疾患の総称で,エネルギー摂取の低下やエネルギー消費の亢進によるやせは含まない.わが国における有病率は約130万人に1人と推定されている.

▼分類

 リポジストロフィーには遺伝子異常による先天性のものと,自己免疫異常,ウイルス感染,薬剤による後天性のものが知られている.また,全身の脂肪組織が欠如する全身性脂肪萎縮症と,下肢などの特定の領域に限局して脂肪組織が消失する部分性脂肪萎縮症が存在する.先天性全身性脂肪萎縮症ではAGPAT2BSCL2CAV1PTRF遺伝子異常が,先天性部分性脂肪萎縮症ではLMNAPPARGZMPSTE24AKT2PLIN1CIDEC遺伝子異常が報告されている.いずれも,脂肪細胞の発生・分化や,脂肪組織における脂質蓄積にかかわる遺伝子である.後天性脂肪萎縮症の原因としては,脂肪組織の破壊をもたらす自己抗体やウイルス感染(特にHIV),HIV治療薬であるHIVプロテアーゼ阻害薬などが知られている.

▼病態

 リポジストロフィーでは,脂肪組織にエネルギー貯蔵ができなくなるため,高中性脂肪血症をきたしたり,肝臓,骨格筋,膵臓などの非脂肪組織に異所性脂肪として蓄積されたりする.また,脂肪組織はアディポサイトカインを活発に産生・分泌している人体最大の内分泌臓器であり,リポジストロフィーでは脂肪組織量が減少することにより,レプチンの血中濃度が低下する.レプチンは代表的な善玉アディポサイトカインであり,摂食抑制作用,インスリン感受性の亢進作用,エネルギーの調節作用など多彩な生理作用を有している.リポジストロフィーでは,異所性脂肪の増加・低レプチン血症により,強いインスリン抵抗性をきたすことで脂肪萎縮性糖尿病を発症する.

▼予後

 リポジストロフィーは,前述のよう

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