診療支援
治療

2 ウィルソン病
Wilson disease
髙後 裕
(国際医療福祉大学教授・消化器内科学)

疾患を疑うポイント

●小児~成人のいずれでも発症しうる.

●原因不明の肝機能異常,神経精神症状,クームス陰性溶血性貧血,腎障害

▼定義

 銅輸送ATPaseの1つであるATP7B遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝性疾患である.肝臓をはじめ,大脳基底部,角膜および腎臓などに銅の過剰沈着を認め,種々の臓器障害を呈する〔第5章のも参照〕.

▼病態

 銅はセルロプラスミン,モノアミン酸化酵素,シトクロムC酸化酵素,チロシナーゼ,スーパーオキシドジスムターゼなどの構成成分として存在し,鉄とともに造血器,骨代謝,結合組織代謝に重要である.過剰な銅は,細胞に有害な活性酸素種を産生,細胞障害やDNA損傷をきたす.銅は体内に100~200mg存在し,1日に1~2mgが上部消化管から銅輸送ATPaseであるATP7Aを介して吸収され肝細胞のATP7Bを介して胆汁から糞便中に排泄される(図6-38).Wilson病はATP7B遺伝子の異常で,変異部位は200以上あり,複合ヘテロ体の遺伝形式である.変異ATP7Bは正常に機能せず,肝細胞の細胞質からトランスゴルジ体への銅輸送が障害され,胆汁中に銅が排泄できず,肝細胞内に銅が蓄積する.ゴルジ体内は銅欠乏となりセルロプラスミンへの銅の結合が起こらず,不安定なアポセルロプラスミンのまま血中に分泌,容易に分解され,セルロプラスミンと血清銅は低値となる.肝細胞に銅が過剰になると,一部は遊離銅となり血中に遊離し,脳,角膜,腎臓をはじめとした臓器障害を引き起こす.

▼疫学

 本邦での発症頻度は,約3万~4万人に1人,保因者は約100~120人に1人と考えられる.発症年齢は5~35歳,まれに40歳代を超えて発症する.

▼分類

 肝障害を呈する場合を肝型,肝機能に異常がなく神経・精神症状を呈する場合を神経型,両者を併せもつ場合を肝神経型と分類する.肝障害型は,さらに慢性肝炎・肝硬変

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