診療支援
治療

1 多発性内分泌腫瘍症
multiple endocrine neoplasia(MEN)
櫻井 晃洋
(札幌医科大学教授・遺伝医学)

疾患を疑うポイント

●特定の内分泌腫瘍の個人・家系内での集積.

●若年での発症,多発・再発.

学びのポイント

●複数の病変の合併をもとに診断される疾患で,疑わしい症例に対する効率的な検索が重要.

●同じ病変でもMENか否かで治療方針が異なるものがある.

●適切な遺伝学的検査による診断が必要.

●同じリスクを有する可能性がある血縁者へのアプローチも必要となる.

▼定義

 原因遺伝子の病的バリアント(変異)により,特定の内分泌臓器を中心に良性・悪性の腫瘍性病変を発症する常染色体優性遺伝性疾患.

▼病態

 MEN1とMEN2は,それぞれ病態も原因遺伝子も異なる別個の疾患である.いずれも常染色体優性遺伝性疾患で,変異保持者はほぼ100%の確率で生涯のうちになんらかの関連病変を発症する.変異遺伝子は50%の確率で親から子に伝わる.

MEN1

 腫瘍抑制遺伝子であるMEN1機能喪失型変異により,特定の臓器に腫瘍性病変を発症する(表7-52)

 散発性(非遺伝性)の原発性副甲状腺機能亢進症は中高年女性に多く,多くは単一腺の腺腫であるが,MEN1では20歳代前半から複数腺の過形成を呈する.

 膵消化管神経内分泌腫瘍は多発性であることが特徴で,75%の患者で診断時に複数の腫瘍が発生している.通常は成人以降に発症するが,インスリノーマは成人前にも発症する.非機能性腫瘍,ガストリノーマ,インスリノーマが多い.一部は悪性化し,生命予後に影響する.

 下垂体腺腫は非機能性腫瘍,プロラクチノーマ,GH産生腫瘍が多いが,散発例と比べて特徴的な違いはない.

 副腎皮質腫瘍はほとんどが非機能性で増殖傾向も乏しい.胸腺神経内分泌腫瘍は悪性度が高く,生命予後決定因子となる.皮膚腫瘍としては,顔面血管線維腫,脂肪腫,結合組織母斑などがある.

MEN2

 癌遺伝子であるRET機能獲得型変異により,腫瘍を発症する.変異コドンの部位と病型には明

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