疾患を疑うポイント
●急激な尿量減少や数日で進展する血清クレアチニン濃度の上昇がみられる.
●腎障害単独であることよりも多臓器不全の一分症として生じることが多い.
学びのポイント
●急性腎障害はさまざまな臨床場面に生じうる症候群であり,その原因となる病態はさまざまであるが,急性腎障害の発症はどのような場合においても有意に死亡率を増加させることが知られている.
●急性腎障害の診療においては,常に原因の鑑別と可逆的要因を除くことが求められる.
●急性腎障害に対する特異的かつ有効な治療方法はいまだ臨床応用に至っておらず,基礎研究の成果が臨床に還元されることが期待されている.
▼定義
急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は急激な腎機能低下により生体恒常性の維持が困難となる病態であり,その原因は多岐にわたる.
▼病態
腎実質の細胞・組織障害によるAKIの原因として最も多いものは虚血あるいは腎毒性物質(抗菌薬,造影剤,ミオグロビンなど)による尿細管上皮細胞障害である.特に重症AKIでは尿細管上皮細胞が壊死に陥ることが古くから指摘されており,急性尿細管壊死(acute tubular necrosis:ATN)とよばれている.AKIでは複数の病態が関与していることが多く,腎臓への灌流圧低下に加えて,微小循環障害や低酸素による虚血性障害,炎症細胞(好中球,マクロファージなど)や液性因子による炎症性障害,薬剤を含む腎毒性物質による直接的な細胞障害が混在している(図9-25図).これらは主に尿細管上皮細胞に障害をもたらすが,糸球体病変(急性糸球体腎炎,急速進行性糸球体腎炎など)や間質性腎炎(薬剤や感染症)もAKIをきたしうる.
▼疫学
高い発症率と重症度に相関して死亡率が上昇することがAKIの疫学的特徴である.これまでのAKIに関する疫学研究をまとめると全体の発症率は20~25%であると